ベーリング海は「ズワイガニの楽園」
ズワイガニ(学名:Chionoecetes opilio)は、水深200メートル以下の柔らかい海底に生息する大型の甲殻類です。
水温0〜3℃の冷たい海域を好み、特に太平洋最北部に位置するベーリング海はズワイガニにとって楽園となっていました。
冬の厚い海氷が溶けると、極寒の雪解け水がベーリング海に沈殿して、2℃以下の冷たい海域を安定して作り出すのです。
ズワイガニの繁殖するこの冷涼なエリアは専門的に「コールドプール(cold pool)」と呼ばれています。
また水温だけでなく、塩分濃度もズワイガニにとって最適なのです。
海における浮力は一般に、塩分濃度が上がるほど高くなります(例えば、普通の海水の塩分濃度が約3%なのに対し、体が浮くことで有名な死海は約30%に達する)。
一方で、コールドプールは海氷が溶け込むことで塩分濃度が下がり、自然と浮力も低くなります。
そうすると体の小さなズワイガニの赤ちゃんたちは浮くことなく、安定して海底に留まることができるのです。
こうして捕食者に見つからずに、うまく身を隠しながら成長できるようになります。
100億匹のズワイガニが「神隠し」に?
この地域のズワイガニは魚介類としての商業的価値の高さから、何十年にもわたって厳重に監視・管理されてきました。
ところが科学者たちは2021年にベーリング海のズワイガニが激減していることに初めて気づいたのです。
前年の2020年は新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、例年通りの調査ができなかったため、2021年の急激な減少はまるでズワイガニが神隠しにでも遭ったかのようでした。
専門家は「1975年に個体数の調査が開始されて以来、ベーリング海で最もズワイガニの数が少なかった年だ」と話しています。
調査によると、それ以前の個体数と比べて、100億匹以上のズワイガニが一挙に消失したと推定されたのです。
この神隠しの原因は今まで謎のままでしたが、今回、NOAAの研究チームがついにその原因を特定しました。