重力地図。インド洋に大きな「重力の穴」がある
重力地図。インド洋に大きな「重力の穴」がある / Credit:ESA – GOCE High Level Processing Facility
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地球上で極端に重力が弱いインド洋の「重力の穴」を説明する新説 (2/2)

2023.11.08 Wednesday

前ページインド洋にある「重力の穴」の謎

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幻の海「テチス海」の消滅とその亡霊が重力異常を引き起こす

現在の主要なプレート15個
現在の主要なプレート15個 / Credit:USGS, Washiucho_プレートテクトニクス

パル氏ら研究チームは、はるか昔に生じたプレート移動に目を向けました。

スーパーコンピュータを使用して、1億4000万年前からプレートがどのように動いたか、様々なシミュレーションを行ったのです。

プレートテクトニクスの理論では、地球の表面は何枚かの岩盤「プレート」で構成されており、これが互いに動くことで大陸移動が引き起こされると考えられています。

ゴンドワナ大陸(Gondwana)とローラシア大陸(Laurasia)。間に存在したのがテチス海(Tethys Sea)
ゴンドワナ大陸(Gondwana)とローラシア大陸(Laurasia)。間に存在したのがテチス海(Tethys Sea) / Credit:Lennart Kudling_ゴンドワナ大陸

この理論によると、1億8000年前、現代のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、インド亜大陸(インド半島)、南極大陸、オーストラリア大陸などは1つにまとまっており、「ゴンドワナ大陸」と呼ばれていました。

近くには、現在のユーラシア大陸と北アメリカ大陸がまとまった「ローラシア大陸」がありました。

そしてゴンドワナ大陸とローラシア大陸の間には「テチス海」と呼ばれる海域が存在していました。

ところが約1億2000万年前、インドは「インド大陸」として、ゴンドワナ大陸から分離し、現在のユーラシア大陸に衝突するルートを進み始めました。

インド大陸の移動ルート
インド大陸の移動ルート / Credit:Wikipedia Commons_インド亜大陸

これはつまりインドプレートの移動と、間に挟まれたテチス海とそのプレートの消滅を意味します。

結局、インドプレートは7000万年前にユーラシアプレートに接触し、その後5000万年もの間、衝突を続けたようです。

その衝突でできた隆起が現在のヒマラヤ山脈だと言われています。

そしてユーラシア大陸に合体したインド亜大陸の南には、現在のインド洋が形成されたのです。

これらは表面上の変化ですが、その下では、もっと強烈な変化がありました。

研究チームは、移動中のインドプレートが、テチス海を形成していた海洋プレート「テチアンプレート」の上を通過したと考えています。

テチアンプレートは、インドプレートの下に押し込まれていき、マントルの下へと沈み込んでいったのです。

地球内部と表面の温度分布。新説ではテラス海のプレートがマントルの下に沈み込んだことが原因で対流運動が発生。結果としてインド洋下のマントルから軽い物質が上昇し、重力の穴が作られたと考えられている。
地球内部と表面の温度分布。新説ではテラス海のプレートがマントルの下に沈み込んだことが原因で対流運動が発生。結果としてインド洋下のマントルから軽い物質が上昇し、重力の穴が作られたと考えられている。 / Credit:Debanjan Pal(IISc)et al., Geophysical Research Letters(2023)

結果としてマントル内で大規模な対流運動が発生。

プレートを「押し込んだ」代わりに、マントル内の比較的軽い物質が「押し出され」、地表に向かって上昇していきました。

最終的に、これらの物質はインド洋の下に流れ込み、現在の重力異常を作り出したようです。

研究チームの新説によると、この重力異常は約2000万年前から生じており、少なくともあと数百万年は続くと予想されています。

つまり、インド洋の「重力の穴」は、はるか昔に消滅した幻の海「テチス海」のプレートが原因であり、その海はまるで亡霊のように、今でも不思議な現象を引き起こし続けているというのです。

インド洋の「重力の穴」を引き起こしているのは、「テチス海」の亡霊なのかもしれない
インド洋の「重力の穴」を引き起こしているのは、「テチス海」の亡霊なのかもしれない / Credit:ESA/HPF/DLR

では、この新説によって「重力異常は完全に解明された」のでしょうか。

そうではありません。

今回の研究に関与していない一部の科学者は新説に納得しておらず、「インド洋の下でマントルの対流運動が発生しているという明確な証拠はまだない」と述べています。

「重力の穴」の謎を解くには、今後も多くの調査や研究が必要でしょう。

ただし今回の説を検証する時間はまだまだ残されているため(少なくとも数百万年)、いずれはこの新説が証明されることになるかもしれません。

【編集注 2023.11.09 11:00】
誤字の修正を行いました。

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