新種と判明!52℃の熱湯でも茹で上がらない
チームは詳しい形態分析から、このヨコエビがアメリカ大陸のほぼ全域に広がる「ヒアレラ属(Hyalella)」の仲間であることを特定。
さらに100種近くが存在するヒアレラ属の既知種と比較した結果、特徴的な脚の形などから新種であることが判明しました。
この新種は、研究者の一人の娘さんの名前を取って「ヒアレラ・ヤシュマラ(学名:Hyalella yashmara)」と命名されています。
しかし最も驚くべきは、この新種が生存できる水温の幅でした。
インカの温泉は場所によって温度が変わり、35℃前後のぬるい水温から78℃の熱湯まで様々です。
現地調査によると、新種のヨコエビは35〜40℃程の温水路や、源泉からそう遠く離れていない50℃程の温泉でうろついているのが見つかっています。
そこでチームは新種がどれほどの水温に適応できるかを実験で検証しました。
一般的にヨコエビは冷水を好むので、最初に冷たい温度で実験した結果、新種は19.8°Cの冷たい水で生きられることが判明しています。
それより冷たい温度では24時間以上を生きることができませんでした。
一方で、どこまでの熱さに耐えられるかを試したところ、52.1℃という熱湯でも生存できることが明らかになったのです。
過去に記録されているヨコエビの最高生息水温は38℃だったので、新種は世界最高記録を塗り替えたことになります。
研究者いわく「世界におよそ1万種が知られているヨコエビの中で最も熱い水温で生きられる種」とのことです。
52.1℃は普通のヨコエビなら軽く茹で上がって死んでしまう温度です。
これについて研究主任の富川光(とみかわ・こう)氏は「タンパク質は高温で熱変性するため、多くのヨコエビの外骨格は高温環境に耐えられない」と指摘。
「しかしインカの温泉で見つかった新種は、高温環境で高い活性を持つタンパク質を進化の過程で獲得したと推測される」と説明しました。
また今回の知見は、ヨコエビの生息水温がこれまで考えられていたよりも幅広く多様であることを示した点で重要な発見です。
今後、ヒアレラ・ヤシュマラの生態や生理を詳しく調べることで、甲殻類における高温耐性のしくみが明らかにできるかもしれません。
富川氏は「昔から身近に親しまれてきたヨコエビが新種だったことに驚く一方で、甲殻類のヨコエビがこれほどの高温で生息しているのは常識では考えられません。どのように適応しているのか今後、詳しく調べていきたい」と話しています。