相貌変形視の患者の多くは脳の視覚領域に異常があった
なぜ顔だけが歪んでみえるのか?
その仕組みを理解するには過去の症例が大きなヒントになります。
2009年に報告された24歳の女性(主婦)のケースでは、出産後に突然重度の片頭痛と右半分の視野がぼやけるようになり、それ以降、人間の顔の左半分のパーツが滅茶苦茶な位置に配置されてみえるようになってしまいました。
研究者たちが女性の脳を調べたところ、左脳に損傷があることが判明します。
このことから視野の左右が右脳と左脳で並行して行われており、最後に1つの視野として統合されていることがわかります。
2011年に発表された研究では、人間の顔がドラゴンのような顔に変化して見えると訴えた52歳の女性について報告されています。
彼女は実際の顔を知覚して認識することができましたが、数分後には長くとがった耳と突き出た鼻が生え、ドラゴンのような顔に変化してしまいます。
また彼女の場合は、顔のように見える3つの点や何もない真っ暗な空間にさえ、ドラゴンの顔が出現してしまうと報告されています。
研究者たちが彼女の脳をMRIで調べたところ、レンズ状核と半卵円中心に複数の白質異常があることが判明しました。
2023年に公開された論文では、2人の患者は鏡の前に立つと片方の目が眼窩から飛び出し、頬を滑り落ちているように見えたと報告しています。
また上唇に「歯と耳」が出現したと述べている患者や、顔を「ダリの絵画の中の時計のよう」または「万華鏡のように変化する」と述べている患者が報告されています。
また2023年に発表された別の研究では、相貌変形視を患う48人の脳スキャンをしたところ、44人で脳の視覚を処理する領域での病変が発見されました。
今回のシャラ氏のケースでも病歴が調べらたところ、シャラ氏は双極性障害および心的外傷後ストレス障害の病歴があり、43歳の時に頭部に重傷を負い入院することになりました。
また3年前の55歳のとき、相貌変形視が発症する4カ月前に、一酸化炭素中毒になった可能性がありました。
研究者たちがシャラ氏の脳をMRIで調べたところ左の海馬に1cmほどの円形の病変と軽度の脳委縮が確認されました。
以上の結果は、相貌変形視は何らかの脳への(特に顔認識や視覚領域への)損傷がキッカケになっている可能性を示します。
次ページでは相貌変形視の治療につながるヒントを紹介します。