良性マゾヒズムはどのレベルの感情刺激を好むのか?
今回の調査では大学の学部生285人を対象に、良性マゾヒズム傾向のある人が具体的にどのレベルのネガティブ感情刺激を好むかを調べました(Journal of Research in Personality, 2024)。
調査ではまず、「良性マゾヒズム尺度(Benign Masochism Scale)」という診断ツールを使って、各被験者に良性マゾヒズム性向がどれくらいあるかを評価します。
次に実験課題として、各被験者に感情を誘発する一連のビデオクリップを見てもらいました。
このビデオクリップは、次の4つのカテゴリーに分類されます。
1:ポジティブ感情を誘発する低刺激のビデオ(例、静かな森林のシーン)
2:ポジティブ感情を誘発する高刺激のビデオ(例、明るく笑っている女性)
3:ネガティブ感情を誘発する低刺激のビデオ(例、散乱するゴミや地面をぬらぬらと這い回るヘビ)
4:ネガティブ感情を誘発する高刺激のビデオ(例、クジラを殺めるシーンや男性が嘔吐するシーン)
被験者は各カテゴリーのビデオクリップをランダムに20回見るごとに、どのカテゴリーのビデオクリップが見たいかを選択することができました。
また被験者は各カテゴリーのビデオクリップを見た後に、自分自身の感情や興奮レベルを評価するアンケートに回答しています。
データ分析の結果、被験者の多くはポジティブ感情を誘発する高刺激のビデオを最も多く選んでいました。
ところが、良性マゾヒズム性向の強い人は、クジラを殺めるシーンのような「ネガティブ感情を誘発する高刺激のビデオ」を最も強く好むことが分かったのです。
また良性マゾヒズムが強い人は、他の被験者に比べて、ネガティブ感情を誘発する高刺激のビデオから大きな楽しみを得ていました。
これらの人は反対に、ポジティブな感情を誘発するビデオクリップにはほとんど興味を示しませんでした。
一方で、ネガティブ感情を誘発する低刺激のビデオを選択した被験者はおらず、良性マゾヒズムの人はそれほど刺激的でない負の体験にはあまり関心がないものと見られます。
このことから、良性マゾヒズム性向が強い人ほど、一般には不快度が高く、嫌悪感を誘発しやすい感情体験に喜びを見出すことが確認されました。
良性マゾヒズムは性的マゾヒズムとは違って、ほとんどのことが一人のうちで完結し、誰に迷惑をかけるというものでもありません。
また当人の精神面にはポジティブな作用を与えていると考えられるため、無理のない範囲で楽しむといいでしょう。