ヤリイカの交尾スタイルには2種類ある
そもそも魚類を含めイカなどの交尾は、哺乳類が行う交尾とはかなり異なる形で行われます。
まずメスが卵を生み、オスがそこに精子を掛けることで受精して子供が生まれます。
イカは更に特殊で、オスが自分の精子の詰まったカプセルをメスに渡したり、体表面に付着させるという方法で交尾を行います。
ヤリイカの交尾も、オスが精子の詰まったカプセルをメスの体表面に付着させることで行われます。
ヤリイカのオスは、通常、他のオスのライバルたちと正々堂々と戦った末にメスを勝ち取り、メスに精子カプセルを渡す権利を獲得します。これを「ペア雄」と呼びます。
しかしヤリイカにはもう1つのタイプのオスがいます。
これは他のヤリイカに比べて、非常に身体の小さいタイプのオスで、彼らは戦ってメスを勝ち取るということができません。そのためライバルとの争いを避けて、すでにペアになっているカップルの交尾の際にこっそりと近づき、自分の精子カプセルを紛れ込ませることで繁殖を行います。
なんだか卑怯なやつにも見えますが、これは身体の小さい個体が見つけた生存戦略であり、コソコソと行動(スニーキング)して交尾を行うことから、これを「スニーカー雄」と呼びます。
このように、同じ種の同性の間で交尾スタイルが異なる現象を「代替繁殖戦術」といい、哺乳類や鳥類、魚類、昆虫など、幅広いグループで見られています。
私たちヒトでも、好きな人にぐいぐいアピールできる肉食系もいれば、自分からは積極的に話しかけられない草食系もいますよね。
人間は個性の違いから、さまざまな恋愛戦略を利用しますが、ヤリイカの場合に特殊なのは、同じ種内でありながらオスにサイズ差がありすぎて勝負できないため、このような交尾戦略の違いが生じている点です。
研究者たちの疑問は、繁殖戦略に違いを生むほど、同じ種の同性でどうしてこれほどオスのサイズが異なるのか? ということでした。
これは遺伝的な要因なのか? それとも水温などの環境的な問題で起きることなのか? この部分が長年の観察でもよくわかっていなかったのです。
これはイカの成長がどのような要因で決まっているかという点で、漁業にも影響する重要な問題です。
その中で、今回研究者が注目したのが「誕生日仮説」と呼ばれるものです。
これは「個体がどのような繁殖戦略をとるかは、生まれた日によって決定される」という大胆な仮説で、1998年に進化生態学者のミヒャエル・タボルスキー(Michael Taborsky)氏によって提唱されました。
例えば、夏真っ盛りに生まれると肉食系になり、冬の寒い時期に生まれると草食系になるというような考え方で、ヒトでは到底あり得ませんし、他の生物でもほぼ見られていません。
しかしまったくの空論というわけではなく、過去の研究で魚類において3例のみ確認されています。
研究チームはこれがもっと広範な生物の間でも見つかる可能性があり、今回のヤリイカの繁殖戦略に影響するほどの体格差を生む要因としても、誕生日仮説が当てはまるかのでは無いかと考え、検証を行いました。