交尾の戦略は「誕生日」で決定づけられていた!
チームは2020年から2023年の間に自分たちで捕獲したか、商業的に捕獲されていたオスのヤリイカ350匹以上を対象に調査しました。
調べたのは「平衡石(へいこうせき)」というイカの頭部にある硬い組織です。
平衡石は炭酸カルシウムを主成分としており、木の年輪のように一日一本の輪っかが形成されることから、この本数を数えることで採集時の日齢や、遡っての誕生日までも調べられます。
そして、それぞれの個体の誕生日と繁殖戦略を照らし合わせた結果、オスのヤリイカにも誕生日仮説が当てはまることが判明したのです。
具体的には、4月上旬〜7月頃までの早生まれだと、正々堂々とメスを勝ち取る大型の「ペア雄」になりやすく、7月〜8月中旬までの遅生まれだと、コソッと交尾を狙う小型の「スニーカー雄」になりやすくなっていました。
また各個体の成長履歴を調べてみると、生まれた時期が違っても100日齢までの成長には差がなく、ペア雄とスニーカー雄の体サイズの違いは生まれてから100日以降に生じ始めることが明らかになっています。
この結果からチームは、ヤリイカの繁殖戦略の違いは、誕生初期の成長の良し悪しではなく、誕生した季節に由来する何らかの環境条件によって前もって決定づけられているのだろうと推測しました。
その結果が目に見えてわかるのが誕生から100日以降というわけです。
ただ、人生の初期の成長率に両者で違いがないという点が謎であり、見た目よりももっと複雑な要因の絡む問題であると考えられます。そのため、この要因がなんなのかという点については今後の研究課題となります。
それでも本研究の成果は、水生無脊椎動物で誕生日仮説が当てはまることを証明した世界初の貴重な報告となります。
加えて、生まれた季節によって繁殖戦略が決まるのであれば、生息地の破壊や温暖化により環境条件が変化してしまうことで、繁殖戦略の振り分けバランスにも狂いが生じてしまう恐れがあります。
したがって研究者らは、今回の知見がヤリイカの繁殖メカニズムの解明だけでなく、気候変動や環境破壊から種の繁栄を守る上でも役に立つと考えています。
しかしイカの話とはいえ、誕生日で人生の恋愛の仕方が決まってしまうというのはなんか嫌ですね。