Y染色体を持つオスマウスの胎仔がメスの体になる
哺乳類の性決定システムは、胎児の発生過程で性別を決定する重要なメカニズムとして知られています。
人間を含む多くの哺乳類では、この性別の決定はX染色体とY染色体によって制御されています。
一般的に、XYの性染色体を持つ個体は男性(オス)に、XXの性染色体を持つ個体は女性(メス)になります。
そのため多くの人々は、「Y染色体があればオスになる」と考えがちですが、実はこれにはもう少し複雑な仕組みが関わっています。
Y染色体が存在するだけではなく、その中にある特定の遺伝子が適切に機能することが必要なのです。
特に重要なのが、Y染色体に存在するSRY(Sex-determining Region Y)遺伝子です。
この遺伝子がスイッチを入れることで、胎児の精巣の発達が始まり、結果としてオスの性別が決定されます。
このSRY遺伝子の働きは、性決定のスイッチのようなものです。
もしSRY遺伝子が適切に機能しなければ、Y染色体が存在していてもオスとしての発達は起こらず、性決定に異常が生じることがあります。
したがって、Y染色体の存在だけでなく、SRY遺伝子の正確な機能が、哺乳類の性別決定において不可欠な要素となっているのです。
(※詳しくは「SRY遺伝子のスイッチが入り活性化する➔ SRYが発現するとSox9を活性化➔ Sox9がセルトリ細胞を分化させる➔ 精巣が発達し、オスの性決定が行われる」となります。
しかし、SRY遺伝子のスイッチを入れるためには、他の分子の助けが不可欠です。
その一つが、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる小さな分子です。
これらのmiRNAは遺伝子の発現を調節し、適切なタイミングで遺伝子のスイッチを入れる役割を担っています。
SRYがY染色体のスイッチならばmiRNAはスイッチに電力を注ぐための「起動キー」と言えるでしょう
特に注目すべきは、「miR-17〜92クラスタ」と呼ばれるmiRNAのグループです。
このクラスタは「miR-17、miR-18a、miR-19a、miR-20a、miR-19b-1、miR-92a-1」の6つの異なる小分子(miRNA)で構成されています。
これらのmiRNAは、生殖腺の発達や性決定において重要な役割を果たしていると考えられていますが、その詳細な影響についてはまだ解明されていません。
そこで今回、デューク大学の研究者たちは、miR-17〜92クラスタに属する6つのmiRNAを欠如させたマウス胚を作成し何が起こるかを調べました。
するとこのmiRNAクラスタが欠如しているマウス胚は、Y染色体を持っていても精巣の発達が阻害され、成長してもオスとしての特徴を形成できませんでした。
SRY遺伝子の発現が遅れ、その結果としてセルトリ細胞の分化が阻害されました。セルトリ細胞は精巣の形成と機能に不可欠な細胞であり、これが適切に分化しないと、精巣そのものが発達しなかったのです。
さらにmiRNAを削除されたオスマウスでは上の図のように「子宮」が体内で生成され始めていたことがわかりました。
(※詳しくは「miR-17〜92クラスタの欠如➔ SRY遺伝子の発現遅延(約12時間)➔ Sox9の適時活性化が失敗➔ セルトリ細胞の分化が遅れるまたは阻害される➔ 精巣が発達せず、卵巣が発達➔ 結果としてメスとしての性決定が行われる」となります)
これらの結果は、Y染色体の遺伝子コード領域を直接削除しなくても、6つの小分子の働きを阻止するだけでオスからメスへの性転換が可能であることを示しています。
この発見は、性分化に関する理解を深め、性決定における遺伝子の役割を再評価する重要な一歩となります。
さらに、性分化に関連する疾患の理解や治療法の開発に新たな道を開く可能性があります。
たとえば子宮移植の前や子宮移植と並行してこの知見を応用することで、身体の順応を助ける新たな治療法が期待されます。
miRNAの制御を利用した性転換や性決定の調整は、医学的に画期的な進展をもたらすかもしれません。
なるほどこれで男女比を1:3くらいに変えてしまえば
少子化を緩やかにできるかもしれませんね