先天性無歯症の患者を救う「歯生え薬」の研究
生まれつき歯が欠損している疾患を「先天性無歯症」と呼びます。
成人の口には通常32本の歯がありますが、人口の約1%は、この先天的な疾患により歯の本数が少ないのです。
またその中でも6本以上の歯が欠損しているケースでは、遺伝が大きく関係していると言われており、全人口の0.1%が該当します。
これらの患者は、人工の歯を用いた代替治療しかなく、また顎骨の発達期である幼少期から無歯症であるため、歯科インプラントなどの対応自体が困難となる場合もあります。
こうした背景にあって、足りない歯を生やす治療方法の開発が望まれてきました。
では、「歯生え薬」の開発は本当に可能なのでしょうか。
実は、先天性無歯症の原因となる遺伝子の多くは、マウスとヒトで共通しています。
そして、北野病院の高橋氏ら研究チームは2007年に、USAG-1タンパクの遺伝子欠損マウスが、過剰歯(かじょうし:歯の本数が増えること)になることを発見しました。
「USAG-1タンパク」という一種類のタンパク質が、ヒトの歯の成長を抑制していると分かったのです。
その遺伝子が欠損しているマウスは、歯の成長が抑制されないため、本来の数よりも多くの歯が作られてしまいます。
この現象を利用すると、歯の無いマウスに歯を生やすことも可能かもしれません。
2019年には、先天性無歯症のマウスにおいて、USAG-1タンパクの働きを止める薬を投与することで、歯を生やすことに成功しました。
また同様の実験は、ビーグル犬などを対象に実施されており、成功を収めてきました。
そしてこの度、ヒトを対象とした「治験」が開始されようとしています。