「ADHD」と「リスクテイク行動」に共通する遺伝子変異があった!
チームはまず、ADHDと診断された患者およびリスクテイク行動の性質を持つ人々の遺伝子データを集めました。
ADHDに関しては「Psychiatric Genomics Consortium」というデータバンクに登録されている22万5534名(うちADHDと診断されたのは3万8691人)を対象としています。
リスクテイク行動に関しては「Social Science Genetic Association Consortium」というデータバンクに登録されている46万6571人を対象に、ADHDと診断されてはいないが危険行動を取りやすい性質を持つと判断された人々の遺伝子を調べました。
チームが特に焦点を当てたのは「一塩基多型(SNP)」という遺伝子変異についてです。
私たちのDNAは通常、アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)という4種類の塩基の並びで成り立っていますが、SNPではこの塩基の並びが1カ所だけ置き換わっている状態にあります。
例えば、Cであるはずの箇所がTになっているというように。
SNPがあると、正常であるはずの遺伝情報が変更されるため、人とは違う体質になったり、何らかの病気の発症リスクを高めることにつながるのです。
そしてデータ分析の結果、ADHDとリスクテイク行動の両方に共通して存在するSNP(遺伝子変異)が合計で27個見つかりました。
特に「CADM2」と「FOXP2」という2つの遺伝子に共通して見られた遺伝子変異は、ADHDとリスクテイク行動の性質を誘発する上で、非常に重要な要因であることが明らかになっています。
CADM2は衝動性や冒険心といった人格特性と関連づけられる遺伝子です。
CADM2自体は誰もが持っている遺伝子ですが、ここに特定の遺伝子変異が生じるとその働き方や発現量に変化が起こり、衝動性やリスクテイク行動が増加することが知られています。
一方のFOXP2は言語発達や運動制御に関連する遺伝子です。
この遺伝子に特定の変異が生じると、言語能力や運動制御に障害が発生する可能性があります。
これまで、FOXP2の遺伝子変異がリスクテイク行動と関連する事実は知られていませんでしたが、本研究ではADHD患者にFOXP2の遺伝子変異があると、リスクテイク行動の増加につながることが示されました。
さらにADHDとリスクテイク行動に共通する遺伝子変異は、意思決定や衝動制御に関わる脳領域で最も強く発現していることが確かめられました。
このことはADHDとリスクテイク行動の性質が脳機能の異常と深く関連している事実を改めて支持するものです。
以上の結果から、
・「ADHD」と「リスクテイク行動」を引き起こす生物学的メカニズムには、両者に共通して見られる同じ遺伝子変異があること
・ADHDの遺伝的素因を持つ人はリスクテイク行動を取りやすくなる遺伝的特徴をも持ち合わせている可能性があること
が明らかになりました。
研究者らは今回の知見を受けて「ADHDとリスクテイク行動の2つの性質を標的とした新たな治療法の開発に役立つかもしれない」と期待しています。