ミネラルは鼻粘膜から吸収できる
鼻の主な役割は匂いを感じることですが、吸い込んだ空気を加温、加湿して肺細胞を傷つけないようにすることも同じくらい重要な役目です。
この役割を果たすため、鼻の奥の粘膜は複雑に折りたたまれており、その表面積は150平方センチメートルにも及んでいます。
また嗅上皮と呼ばれる匂いを検知する領域には1000万個の嗅覚ニューロンがが存在しており、その表面は特定の匂い分子と積極的に結合するほか、多様なイオンや金属、アミノ酸などの取り込み口を有しています。
このような複雑な構造による表面積増加や特定の物質を積極的に取り込む仕組みは、消化器官で吸収を担う腸を連想させます。
(※海外ではコカインや覚せい剤(メタンフェタミン)の粉末を鼻から吸い込む方式もとられており、これは鼻が吸収口として優れている証でもあります)
実際、いくつかの研究は必須ミネラルとして知られるマンガンや亜鉛、ヨウ素が嗅上皮を介して脳に入ることができるとする強力な証拠が示されています。
たとえば溶接工など空気中の高濃度のマンガンに晒される人々を調べたケースでは、鼻から吸収されたマンガンが脳に運ばれ、神経毒を発するレベルまで蓄積を起こしていることが分かっています。
この結果は、鼻は空気中にあるマンガンをかなりの速度で取り込めることを示しています。
もう1つの重要な例はヨウ素を調べた例でみつかりました。
ヨウ素は甲状腺ホルモンを作るのに必須の元素ですが、地球上の多くの土地ではヨウ素が欠乏状態にあります。
やや古い報告ではありますが、WHOは1993年に世界人口の大部分がヨウ素欠乏症であるとの警告も行っています。
この悲惨な状況はヨウ素添加塩の世界的な普及により改善されましたが、現在でもヨウ素不足は続いています。
(※日本は海藻や魚を食べる習慣があるためヨウ素不足は発生しづらくなっています)
このヨウ素もマンガンのように呼吸によって補える栄養素であることが示されています。
過去に行われた研究では、要素の1日の推奨される摂取量は150μg/日とされていますが、呼吸だけで大気中から11㎍、つまり推奨量の7.3%のヨウ素を吸収している可能性が示されています。
また空気中の高濃度のヨウ素に晒されている洗濯作業員を調べたところ、血中と尿中のヨウ素濃度が他の職業よりも著しく高いことが示されました。
さらに別の研究では、より明白な結果が得られました。
この研究では海藻がヨウ素ガスを放出する性質があるという点を発端にしています。
そこで研究者たちは沿岸部で近くに海藻が豊富に存在する場所、沿岸部だが海藻が少ない場所、内陸部の農村に住む子供たちの尿中ヨウ素濃度の比較を行いました。
調査にあたっては、どの場所に住む子供たちも食事からとっているヨウ素の量が同量であることが事前に確認されています。
結果、海藻が豊富な場所の子供たちの尿中ヨウ素は、他の海藻と無縁な地域と比べて2.7倍も高いことが判明。
またヨウ素欠乏症の可能性のある子供の割合も海藻が豊富なグループ、海藻が少ないグループ、内陸の農村のグループを比較すると、8.7%、14.5%、37.6%となっていました。
さらに大気中のヨウ素濃度は、海藻が豊富な地域は農村部に比べて11倍に達していることも確認されました。
この結果は、人間は海藻から放出するガスを空気を介して吸入することで、1日の必要量のかなりの割合を摂取している可能性を示しています。
これらの結果は、亜鉛やマンガン、ヨウ素などの複数の必須ミネラルのかなりの量を、人間は呼吸によって(時には過剰なレベルまで)補給できることを示しています。
「故郷である海辺の空気を吸うと元気になる」という経験をした人は、ジャンクフードばかり食べていたせいでヨウ素不足を発症させていたのかもしれません。
他にも鼻から吸収できると考えられてる栄養素には、カルシウム、マグネシウム、鉄、そしてビタミンCが含まれています。
ただ、これらについてはマンガンやヨウ素ほどの詳細な検証は進んでおらず断言はできない状態にあります。