新鮮な空気は有用な菌を含んでいる
現代の私たちは「新鮮な空気」という言葉を有害な汚染物質がない空気という意味に捉えています。
しかし人類の歴史を振り返ると「新鮮な空気」は決してイメージ的なものではなく、医学的に肉体に対しての実利を発揮してくれると考えられていました。
たとえば紀元前2世紀ごろのローマの作家は、新鮮な空気を吸うことに実利を見出していました。
またスカンジナビアの分化では、冬でも屋外で過ごし新鮮な空気を吸ったほうが健康に良いとされていました。
このように何千年もの間、さまざまな文明において「新鮮な空気」の効能が述べられています。
「新鮮な空気」という言葉に科学的な定義はありませんが、今回の研究において研究者たちは、この言葉を古代のように、自然環境または田園環境に存在する空気であると規定しました。
新鮮な空気にはビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富に含まれており、呼吸によってそれらを取り入れることが可能になるからです。
「1日1個のりんごは医者を遠ざける」という言葉のように、新鮮な空気を吸うことは食事で不足する栄養素を補う手段となり得るのです。
ですが新鮮な空気の利点は栄養素だけではありません。
今回の研究では、自然環境が作り出す新鮮な空気に含まれる微生物もまた重要であると述べています。
従来、微生物は食物や腸内環境を通じて健康に寄与するものと考えられてきました。
しかし世界9地点の空気中の微生物を調べたところ、1立方メートルあたり9.2 × 101 から 1.3 × 108 の範囲であると報告されました。
この値は都市部では最も低く田舎の自然環境豊かな場所では多くなりました。
つまり田舎の人々は空気中の微生物を毎分で数百万個取り込む場合があるのに対して、都市部の人々は数百個しか取り込めない場合があるのです。
空気中に存在する微生物は、口や鼻、気管支、肺などに存在する、常在菌とよばれる微生物の供給源になります。
私たちの体の表面にも内部にも様々な微生物が住み着いていますが、それらのかなりの部分が空気中を漂っていた微生物が定着したものとなっています。
これらの微生物の中には、病原体のように病気を引き起こすものもありますが、その多くは無害であり、彼らが形成する縄張りは、病原菌や病原ウイルスが定着するのを防ぐのにも役立ちます。
たとえば消毒をし過ぎて常在菌を死滅させてしまうと、逆に病原菌が増えやすくなってしまうという事態も起こり得ます。
豊かな微生物が存在する場所で呼吸を行うと、生きて病原菌と戦ってくれる常在菌を補給することができ、健康の維持と増進に役立ちます。
またこれまでの研究により、微生物は取り込まれた器官に留まらず、移動できることも示されています。
つまり消化管の菌が肺に定着したり、逆に鼻や肺の菌が腸内細菌叢に紛れ込むことがあるのです。
腸内環境を整えるためにビフィズス菌などを摂取することは非常に有効ですが、もしかしたら自然環境にいる菌を鼻や肺に入れることも、同じくらいお腹の健康に重要となります。
実際、健康な人と慢性呼吸器疾患の人の鼻腔内微生物叢を比較したところ、健康な人たちの鼻には、植物やミツバチなどに関連する自然環境に由来する微生物が多く存在することが示されました。
また定期的に自然環境に赴く人美とは都市部だけに入る人々に比べて呼吸器系の健康状態が良好であることが知られています。
これまでこの現象は、都市部の汚れた空気を吸わない期間があるからだと考えられていましたが、空気微生物の存在を効力すると、自然環境において微生物を定期的に補給することが健康を維持しているとも解釈できます。
以上のことから、新鮮な空気を吸うことは、ビタミンやミネラル、その他未知の健康成分を取り入れるのに加えて、常在菌のバランスを整え多様な細菌構成を維持するのにも役立つと言えます。
そのため研究者たちは、潜水艦や宇宙ステーション、締め切られた都市部の部屋に代表される新鮮な空気が得られない環境は、人体の健康にとってマイナスの影響を与えることになると警告しています。
豊富な栄養素と多数の微生物を含む新鮮な空気は文字通り生きているため、空気循環装置やろ過装置を経ることは、ある意味で「死んだ空気」を作ることになるとも言えます。
もし週末などに暇な時間があれば、毎日のヨーグルトを食べるだけでなく、自然豊かな場所で新鮮な空気を吸い込んでみるのもいいでしょう。