腸内細菌はエネルギー生成と消費に影響していた
実験では、脳が大きい霊長類である人間とリスザルの一種(Saimiri boliviensis)、脳が小さい霊長類であるマカクザルの一種(Macaca mulatta)の腸内細菌叢3種をマウスに投与し、定期的に体重や体脂肪率、空腹時の血糖値などを測定しました。
結果、脳が大きい種の腸内細菌叢を接種したマウスは、エネルギー消費量の増加、空腹時血糖値の上昇、エネルギー生成量の増加がみられました。
そのうえ、これらのマウスは、脳が小さい種の腸内細菌叢をもつマウスよりも多く餌を食べたにも関わらず、体脂肪率は低く、体重増加も少ない、太りにくいマウスになりました。
対照的に、脳が小さい種の腸内細菌叢を接種したマウスは、脂肪の蓄積と体重増加が顕著で、太りやすいマウスになりました。
分析すると、脳が大きい種の腸内細菌叢を接種したマウスではピルビン酸生合成やグリコーゲン分解などエネルギーを生み出すための経路が豊富であることがわかりました。
加えて、これらのマウスでは酢酸やプロピオン酸、酪酸といった短鎖脂肪酸の増加がみられました。
短鎖脂肪酸が体内で増えることで代謝に与える影響はいくつか考えられます。
例えば、酢酸の増加は脂肪生成を促しますが、プロピオン酸はこの酢酸の効果を阻害し、さらに、両方の濃度が上がると神経伝達物質やホルモンを介して、グルコースを作る経路である糖新生を促進します。
また、腸はエネルギーを多く消費しますが、酪酸を優先的にエネルギー源として使用するため、体内で酪酸が増えれば腸でのグルコース消費が節約でき、その分、脳にグルコースを供給しやすくなります。
つまり、脳が大きい種の腸内細菌叢は、脳へのエネルギー供給を優先するため、エネルギーの生成と利用を促進させるような代謝の調整を行い、エネルギーを脂肪として蓄えるのではなく、脳と他の組織間でのエネルギー配分を調節していたのです。
続いて、肝臓での遺伝子発現パターンを調べたところ、脳が大きい種の腸内細菌叢をもつマウスでは糖新生や脂肪生成、脂肪酸代謝など代謝に関連する遺伝子の発現に変化がみられ、遺伝子レベルでもエネルギーが優先的に脳に供給されるような調整が行われていると示されました。
今回の研究の興味深い点として、人間とリスザルは近縁ではないにも関わらず、実験結果はどちらも同じように代謝がエネルギーの生成と消費に偏りました。
これにより、脳の大型化によるエネルギー消費量増加に対処するため、腸内細菌が似たように変化した可能性を示唆しています。
つまり、腸内細菌は脳の大きさや機能に関連する代謝の変化に関与しており、脳が大きく進化する過程で重要な役割を果たしたことがわかります。
研究者らは今後、他の霊長類の腸内細菌を使った実験や腸内細菌が生成する様々な化合物と宿主の組織の相互作用に関するデータ収集なども行いたいとしており、さらなる謎の解明が期待されます。