産総研、そして静電気と出会うまで
――本日はよろしくお願いします。今回は静電気を見えるようにしたという興味深い研究についてお話を伺っていきます。
この研究は電気工学と化学という異なる研究分野が合わさって実現したということですが、お二人はどのような学生時代を過ごして、どうやってこの研究に至ったんでしょうか? まずはお二方の簡単な経歴を伺いたいです。
菊永:元々学部では電気電子工学が専門だったんですけれども、大学院では電気というよりは超伝導材料などの物性を調べて、新しい材料を開発するということをやっていました。
ーー大学院では別の研究をされていたんですね。そこからどのようにして産総研に入られたのでしょうか。
菊永:当時の大学の先生が、産総研の研究者とつながりがあり、「ちょっとテーマは大きく変わってしまうんだけど、産総研の採用試験を受けてみないか?」と声をかけていただいたことがきっかけで、その後入所させていただきました。静電気を対象に研究を始めたのはそこからです。
ーーなるほど、寺崎さんはどうですか?
寺崎:私は元々化学屋さんで、バイオミメティクス(生体模倣)というものを大学の頃はやっていました。その中で光電変換といって光を電気に変えるという研究をやっていました。
あとアクティビティとしては学生当時から食べ歩きが大好きで、色々なお店のレビューをしています。論文数よりも圧倒的に多いです(笑)。ただ食べ歩いてばかりであれなので、ダイエットと食べ歩きをどう両立するかっていうところが私の二番目のテーマでして。学生当時は140キロぐらいあったのですが菊永さんと初めてお会いしたときには65キロぐらいまで痩せていましたね。
――(笑)。
寺崎:私も知り合いのつてを頼ってというところはあるのですが、当時物質研というところが太陽電池に関する先進的な仕事をされていたんですね。産業的なこともやりつつ新しいことも出来るのではないかと思い産総研に行くことにしました。
――お二人とも大学の先生やお知り合いを経由して産総研を知り、入所されたのですね。
菊永:そうですね。今は技術研修とかリサーチアシスタントとして、学生の身分でありながら産総研の研究者と一緒に研究をしていただくっていう制度があります。こういったものから産総研を知って体験していただくということもできますね。
ーーではそんな静電気のプロに、いい機会なので色々聞いてみたいことがあります。まずよく下敷きを使って髪を浮かせたりする実験があるじゃないですか。でも塩ビのパイプを擦ってビニール紐に近づけると、逆に離れてふわふわ浮いたりするじゃないですか。こういう静電気の引き付けたり遠ざけたりする性質はどちらを持つのかってどうやって決まっているんですか?
菊永:これは「帯電列」という、プラスになりやすい物質から、マイナスになりやすい物質を順に並べた一覧があり、その接触した状況によって変わってきます。この帯電列は実験的に調べて並べたものになっています。
例えばテフロンと塩化ビニールを擦るとテフロンがマイナスになって塩化ビニルがプラスになるという見方です。

ーー帯電列ですか、そういうものがあるんですね。
菊永:先ほどの例では塩化ビニルがプラスになったんですけど、今度は塩化ビニルとアクリルを擦ると塩化ビニルがマイナスになってアクリルがマイナスになります。なので、何と何を擦るかで同じものでもプラスになったりマイナスになったりするというのが静電気ですね。
ーー同じ物質でも電荷の正負が変わるということですか。
菊永:その通りです。結局、静電気の正体を掴みづらいのは電気的極性がプラスになったりマイナスになったりすることに加えて、その分布がどうなっているかというのが大きいと思います。さらに言えば湿度によって発生した静電気(帯電)の量が減ることがあって環境要因でも変化するんです。これらが常に状態がふわふわしていて掴みづらい理由だと思います。