右:寺崎 正(てらさき なお)さんと左:菊永 和也(きくなが かずや)さんCredit:産業技術総合研究所
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「最初はライトセーバー作ろうと思ってた」静電気を“見えるように”したニ人の科学者【ナゾロジー×産総研 未解明のナゾに挑む研究者たち】 (3/4)

2025.06.04 12:00:37 Wednesday

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2人の知を合わせて見つけ出した「発光材料」

コロナ放電の照射により静電気発光フィルムが発光する様子

ーーそれではいよいよ研究の話を聞いていきたいと思います。まずは「静電気の可視化」という課題に取り組むようになったきっかけを教えていただきたいです。

菊永:先ほども少し話しましたが、静電気ってその辺にあってみんな知っているようで、なかなか分からないというようなものなんです。日常生活だとまあ「バチッとして痛いね」ぐらいなんですけれども、これが産業界になってくると結構厄介で。

半導体関係で言えば、電子部品は数ボルトとかで駆動してるんですよね。一方で静電気ってすごく電圧が高くて何キロボルトとかあるんです。そういった電圧がかかると電子部品が壊れてしまいますし、壊れてしまうだけならまだしも例えば電子部品がたくさん使用されている自動車が不意に動かなくなるとか、そういったことも出てくる可能性もあります。

ーー産業の観点で言えば重大な問題ですよね。

菊永:もちろん対策もしているのですが、それも「問題が起こったら何か対策する、一旦はなんとかなったけどまた別の問題が出てくる」と、そういったことの繰り返しがずっと行われていたのが静電気の業界でした。結局、「静電気が見えないのが一番問題だよね」っていうところから、静電気をいかに見て測るかといったところに落とし込んで研究をしていきました。

ーーずっと見えない敵と戦わざるを得なかったわけですね。旧来の技術が特に問題だった点は何だったのでしょうか。

菊永:静電気って時間と共に変化してしまうんですよね。ですので、なるべく状態を変えずにセンサなどで測定し、パソコン画面上などで人間が認識できるようにする状態にするというのが一般的でした。それも結構ハードルが高くて、空間分解能が全然足りないし結局「数値で出てくるけれど、感覚的にわからない」みたいな、そういったことがあったんです。

なので今回開発した技術は、静電気とぶつかったときに光る材料を使って肉眼でも見えるようにしたという点が、非常に大きなブレイクスルーになりました。

寺崎:「知ってるようで実はよく知らないっていうのが一番怖いんじゃないか」って自分もずっと思っていて。静電気の可視化というのはそうした思い込みが課題だと思って取り組んだものでした。あと、産業界の方が来られて研究を見ていったときに「直接静電気を見ることができるような技術ってないですよね?」と諦めまじりの笑顔で言って帰っていったことが印象に残っていて。

私が蛍光体に関するバックグラウンドを持っていたので、菊永さんのような静電気の研究の人が来たときに私からすれば「逆に電荷がやってきて光らないことがあるんだろうか?」という疑問が出発点になりました。

ーー異分野の人だからこそ気づけた視点ということですか。

寺崎:電荷があれば発光体は光るというのが定説だと思っていたので、菊永さんと話を進めまして電荷がやってきて光る材料を探索することにしました。これ今でも覚えているんですけど「最初はこの材料系ですかね」といって8個くらいですか、持ってきた材料のうち1個が滅茶苦茶光って。喜びに喜んでその日のうちに飲みに行ったのを覚えています。

菊永:あのときはすごく興奮していましたね(笑)。

寺崎:ここから徹夜で実験しましたとかならすごくかっこいいんですけど(笑)。

ーーええ!(笑)光る材料を特定するのはすごく大変な道筋だったのかなと思ってましたけども、割と最初に当たりを付けたところに答えというか、いいものがあった感じなんですか?

寺崎:そうですね。菊永さんが静電気の専門家で、どれくらいの電荷が来ているという情報については聞いていましたので、「その量で機能しそうな発光材料ってなんだろう?」という観点で絞り込めた状態からスタートできたのは大きいと思います。このように他の専門家だけが聞いていたら逃しそうな情報を拾えるというのが産総研の強みだと私は思っていますね。

次ページ研究の今後と未来の研究者に向けて

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