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psychology

「上に指示されてやった」不祥事でしょうもない言い訳をする人の“服従のメカニズム”

2025.03.01 21:00:31 Saturday

戦争や大企業の不祥事で、「上からの指示でやった」という言い訳を聞くことがあります。

こうした弁明に「上からの指示だったら違法でもやるのか?」「自分の頭で考えろよ」と疑問を抱く人は多いかもしれません。

しかし、有名な心理学実験の1つミルグラム実験は、普通の人々が「権威の命令」に従い、非情な行動を簡単に実行してしまう事実を明らかにしました。

とはいえこれは戦後間もない50年以上前に行われた実験です。ネットで多様な意見を聞くことの多い現代の私たちが、人の指示で不道徳な行動を実行してしまうものでしょうか?

こうした疑問もあり、ミルグラム実験を再現した実験が近年の研究で実施されています。

果たして権威に従わせるのは時代の雰囲気なのでしょうか? それとも人間の本質なのでしょうか?

本記事では、最新の研究を基に、現代版ミルグラム実験の驚くべき結果を解説します。

Would You Deliver an Electric Shock in 2015? Obedience in the Experimental Paradigm Developed by Stanley Milgram in the 50 Years Following the Original Studies https://doi.org/10.1177/1948550617693060 Coercion Changes the Sense of Agency in the Human Brain https://doi.org/10.1016/j.cub.2015.12.067

ミルグラム実験とは?

ミルグラム実験が行われたのは1961年、第二次世界大戦後のアメリカでした。

心理学者スタンレー・ミルグラムは、人々がどの程度まで権威に服従し、倫理的な葛藤を乗り越えてしまうのかを明らかにしようとしました。

当時、戦後のニュルンベルク裁判では、多くのナチス戦犯が「命令に従っただけ」と弁明していました。

このような弁明がどこまで真実なのかを検証するため、ミルグラムは実験を設計したのです。

実験では、被験者は「教師」役を割り当てられ、もう一人の参加者(実際は研究者の協力者)が「生徒」役を演じました。

教師役は、生徒に記憶テストを行わせ、間違えるたびに電気ショックを与えるように指示されました。

実験の略図。Lが生徒役、Tが被験者、Eが命令する実験者/Credit:Wikimedia Commons

ショックの電圧は15ボルトから始まり、最大450ボルトに達するまで徐々に上がる仕組みとは被験者に説明されています。

ただ生徒役は実際には電気ショックを受けておらず、あたかも苦痛を感じているかのように叫び声をあげる演技をしていただけです。

被験者は当然この事実を知りません。そのため本気で苦しむ生徒の様子を見ている状況でしたが、それでも実験を進めるよう命じられると、多くの被験者が指示に従いました。

そして最終的に被験者の65%が最大450ボルトの電気ショックを与えるまで命令に従い、生徒役が気絶する演技をするまで実験を続けました。

この結果は、普通の人でも権威の命令に従い、他者に平気で害を及ぼしてしまうことを示しています。

かなり過激な実験ですが、これは50年以上前のものです。では、現代の我々にも同じ傾向は見られるのでしょうか?

次ページ現代で行われたミルグラム実験の再検証

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