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「上に指示されてやった」不祥事でしょうもない言い訳をする人の“服従のメカニズム” (2/2)

2025.03.01 21:00:31 Saturday

前ページミルグラム実験とは?

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現代で行われたミルグラム実験の再検証

ミルグラム実験が行われたのは1960年代ですが、近年になってもこのテーマに関する新たな研究が行われています。

ポーランドのSWPS大学の研究チームは、ミルグラムのオリジナル実験の枠組みを再現し、現代の人々がどの程度服従するのかを検証しました。

この実験が行われた背景には、現代社会において権威への服従傾向がどの程度変化しているのかを明らかにする目的がありました。

特にポーランドは戦後、共産主義体制の影響を受け、歴史的に権威への従順傾向が強かったため、現在の世代がこの傾向を引き継いでいるかどうか検討することに興味が向けられたのです。

1950年代社会主義体制のポーランド。国営商店に並ぶ市民/Credit:Wikimedia Commons

実験では、被験者が「教師」役として「生徒」に記憶課題を行わせ、間違えるたびに電気ショックを与えるよう指示されました。

最初の10回までは電気ショックボタンを押すよう求められましたが、その後の進行については被験者自身が判断できる仕組みになっていました。

結果として、90%の被験者が最大ボルトの電気ショックを実行しました。

これは、1960年代のミルグラム実験の結果とほぼ同じでした。

ただ、被験者が女性の場合、「生徒」役が女性だと、服従率が若干低下する傾向が見られたようです。

他者の命令に服従する脳のメカニズム

一方、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームは、命令に従った際の活動を調査し、人がどのように行動の主体感を失い、責任感が低下するのかを解析しました。

実験では、被験者が二つの状況に置かれました。一つは「自由選択」条件で、自分の判断で電気ショックを与えるもの。もう一つは「命令」条件で、実験者から指示を受けて電気ショックを与えるものです。

この際、被験者の脳活動を測定し、行動の主体感がどのように変化するのかを調べました。主体感とは、「自分が自らの行動を制御し、その結果を生み出している」という感覚のことを指します。

実験の結果、命令を受けて行動した場合、被験者は「自分が行動した」と感じる度合いが低くなり、脳が「自発的な行動」として処理していないことがわかりました。

このとき、脳の前頭前野や運動関連領域の活動が低下し、行動と結果の結びつきが曖昧になることで、「自分が引き起こした」という感覚が薄れていたのです。

この結果、被験者は「自分が行動を決定した」と感じにくくなり、行動の責任を「自分ではなく、命令を下した人のもの」と認識する傾向が強まることが示唆されました。

つまり、命令に従うことで、自分の行動の責任を感じにくくなり、結果として罪悪感や倫理的な抵抗が低下する可能性があるのです。

本文3:実験結果が示す服従のメカニズム

ポーランドの研究では、半世紀以上が経過してもなお、人々が権威の命令に従いやすいことが確認されました。

驚くべきことに、実験に参加した被験者の90%が、最大電圧の電気ショックを与えるよう指示された際に従ったのです。

これは、過去のミルグラム実験とほぼ同じ結果であり、現代においても人間の服従傾向は根強く残っていることを示しています。

また、2016年のUCLによる研究では、命令に従った際の脳の反応が「受動的な行動」として処理されることが示唆されました。

つまり、人は強制された状況下では、自分の行動に対する主体感を低下させ、責任を感じにくくなるのです。

この知見は、歴史的な戦争犯罪や企業不祥事においても、「上司の命令だから」という弁解が頻繁に用いられる背景の一つと考えられます。

命令を受けると、脳が行動の責任を「他者に委ねた」と認識することで、服従が容易になる可能性があるのです。

この研究結果は、私たちの行動がいかに社会的な影響を受けやすいかを示しています。

「私はそんなことをしない」と思っていても、権威の命令のもとでは、意識しないうちに服従してしまう可能性があるのです。

では、私たちはどうすれば「命令」に流されず、自分の倫理観に基づいて行動できるのでしょうか?

心理学の研究では、特定の性格特性を持つ人は特に服従しやすいことが示されています。

例えば、他者との調和を重視し対立を避ける傾向が強い人は、権威者の命令に逆らいにくいと言われています。

また、「自分の人生は外部の力によって決められている」と考える人は、命令を受けた際に「自分には決定権がない」と感じやすくなります。

さらに、権威を強く信じる傾向がある人や、上下関係を重視する人も、命令に対して疑問を抱かずに従いやすいことが指摘されています。

こうした人は、命令の妥当性を考えずに服従するリスクがあるため、異なる意見を持つ人と対話し、批判的な視点を育んだり、一度立ち止まり「これは本当に自分が望んでいる行動なのか?」と自問する習慣をつけるとよいでしょう。

今回の研究結果は、「誰でも状況次第で服従してしまう可能性がある」ことを示しています。

しかし、それと同時に、服従のメカニズムを理解し、自分の性格や行動パターンを意識することで、盲目的な服従を防ぐことも可能であると考えられます。

服従の危険性を知ることは、自由な意思を持ち続けるための第一歩なのです。

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