商業生産された初のタイプライター「ハンセン・ライティングボール」とは

ハンセン・ライティングボールは、デンマークの教育者であり発明家のラスマス・マリング=ハンセンによって、1865年に開発されました。
彼は、聴覚障がい者のための効率的な筆記手段を模索する中で、独創的なタイプライターの設計に着手しました。
この機械は、素早く文字を記録することを目的として考案されました。
その結果、私たちが見慣れた四角いキーボードとは異なり、球体の表面に54個のキーが配置されているという特殊なデザインが誕生しました。
この球体状の配置は、当時画期的でした。
指の動きを最小限に抑えることで、素早くタイピングできるように設計されているのです。
母音を左手、子音を右手で打ち分けることで、スムーズな文章作成が可能になります。
キーを押すと自動的に紙へインクが転写される仕組みになっており、効率的な文章作成が実現されました。

この特徴により、ハンセン・ライティングボールは「手書きよりも速く、正確に文字を記録できるツール」として当時高く評価されました。
「練習すれば、文字を打つ速度が話す速度に匹敵する」とさえ言われていました。
このハンセン・ライティングボールは商業生産された初のタイプライターであり、1870年に販売されました。
そして販売が開始されて以降、視覚障がい者向けのモデル(触覚的な金属キーを採用)も開発されるなど、アクセシビリティの向上にも貢献しています。
このハンセン・ライティングボールを使用した著名人の中には、ドイツの哲学者フリードリッヒ・ニーチェがいます。
視力の低下に悩んでいた彼は、執筆活動を続けるためにこの機械を導入しました。
しかし、輸送中に損傷したため、長く使うことはできなかったと言われています。
それでも、ハンセン・ライティングボールは当時としては非常に先進的な機械であり、後のタイプライターやコンピュータのキーボードにも影響を与える発明でした。