偽情報に対する社会の免疫力を強化する心理的予防接種

偽情報に対抗する手法として、近年注目されているのが「心理的予防接種(inoculation theory)」です。
これはウイルスに対するワクチンと同じように、あらかじめ弱い偽情報に触れることで、実際に強力な偽情報に遭遇した際に騙されにくくするというものです。
これまでの研究では、テキストベースの教育、ゲーム形式のトレーニング、動画コンテンツを活用した手法が試されてきました。
例えば、テキストを用いた教育では、偽情報の典型的なパターンを解説し、論理の欠陥を指摘することで、受け手が冷静に情報を評価できるようになります。
ゲーム形式のトレーニングでは、「Bad News」というゲームを通じて、プレイヤーが実際に偽情報を作成し、その過程を体験することで、デマの手口を学ぶことができます。
さらに、短い動画を活用した教育では、視聴者が手軽に学びながら、偽情報を見抜くためのスキルを養うことができます。
しかし、すべての手法に共通して、時間の経過とともに効果が薄れてしまうという課題がありました。
特に、ゲーム形式のアプローチは即効性があるものの、持続性が低いことが分かっています。
つまり、一度学んだからといって、その効果が永久に続くわけではなく、時間の経過とともに再び偽情報の影響を受けやすくなってしまうのです。
今回の研究は、この課題に対する新たな視点を提供しました。
それが、「心理的ブースターショット」という考え方です。
ブースターショットとは、医療においてワクチン接種後に免疫が低下する問題に対処するため、一定期間を空けて追加接種することを指します。
偽情報に対する耐性を長期間維持するた際にも、医療の場合と同様に定期的な「再学習」が有効かもしれないのです。