なぜ男性は長い腕を獲得したのか、その謎への挑戦

進化の世界では、オス同士の闘争が新たな「武器」を生み出してきたことがよく知られています。
シカの角やカブトムシのツノなど、派手に発達した体の部位には、資源を巡る激しい競争の痕跡が色濃く刻まれています。
ヒトの男性にも、骨格や筋肉量で女性と異なる特徴が多数見られますが、腕の長さについてはこれまで深く議論されてこなかったようです。
確かに、ヒト同士の闘争(特に素手の殴り合いや組み技)の歴史は相当に古く、かつては武器を持つことが当たり前になる前から私たちは腕を駆使して争ってきたはずです。
そう考えると、「腕が長い」ことが男性間の闘争でどれほど有利だったのか、またそれが進化の流れにどう影響したのかという疑問が浮かび上がります。
さらに、男性同士の争いがもたらす“腕の長さ”の利点は、単に大きな打撃やテイクダウンを狙うだけではありません。
関節技を極めたり、相手と距離をとって攻撃をかわしやすくしたりと、格闘における多彩なシーンでリーチの差が関与している可能性があります。
こうした想定は昔から語られてきましたが、実際に「腕の長さが戦いにおいてどの程度の優位性を生み出すのか」は、データに基づいて検証されていませんでした。
そこで今回、研究者たちは総合格闘技(UFC)のプロ選手たちから得られる詳細な試合成績と身体測定情報をもとに、腕の長さと勝率やKO勝利数などを関連づけて解析することにしました。
さらに、クロアチアの青少年やシンガポールの高齢者、アメリカ陸軍の大規模データなど、さまざまな集団の男女差も比較し、男性の腕が本当に「闘争に有利な進化の跡を残しているのか」を探るアプローチをとったのです。