大腸菌を改造してプラスチック工場にする

研究チームが行った実験は、大腸菌に「新しい組み立て図」を与えるようなイメージで進められました。
もともと大腸菌は、飢餓状態になると炭素源を長い分子鎖にして貯蔵するシステムを持っています。
そこに別種のバクテリア由来の特殊な酵素を導入し、炭素源だけでなくアミノ酸も取り込んでつなげられるように設計しました。
ただし、大腸菌にとって「見慣れない」酵素は毒性を持つ場合があり、細胞が弱るリスクがあります。
そこで、少しずつ耐性を獲得した細胞を選抜する「進化的アプローチ」を採り、さらに培養環境や栄養条件を最適化することで、より多くのプラスチックを作れるようにしました。
こうして誕生したのが、ポリエステル構造にアミノ酸由来のアミド結合が混ざった「PEA(ポリエステルアミド)」という新種のバイオプラスチックです。
弾力性や伸びやすさを評価したところ、一部のサンプルが市販のポリエチレン(PE)に匹敵するほどの柔軟性を示しました。
さらに、1リットルの培養液から約54グラムものPEAを得ることに成功し、実験室規模としては高収量と評価されます。
ただし、神戸大学の田口誠一氏が指摘しているように、アミノ酸がポリマー鎖を短くしてしまう可能性があり、実際の強度や分子量は市販のPEには及ばないという見方もあります。
また、細胞からポリマーを取り出す際に大腸菌を破砕して精製しなければならないため、大量生産にはコストや工程面でのさらなる改良が求められます。