鍵は「自分は間違っているかもしれない」と考える性質
研究チームが今回、注目したのは「知的謙遜(Intellectual Humility)」と呼ばれる性質です。
知的謙遜とは「自分の信念や意見が間違っている可能性がある」ことを自覚して、受け入れる姿勢のことを指します。
これは単なる謙虚さとは異なり、思考の柔軟性や他者の視点への開かれた態度とも結びつくと研究者はいいます。
本研究の動機は、知的謙遜―つまり「自分の信念は間違っているかもしれない」と認める能力―が社会的行動にどのような影響を与えるか、理解を深めることでした。
過去の研究ではすでに、知的謙遜が偏見を減らし、他者への寛容さを高めることが示唆されてきましたが、感情的に緊張したり、対立を孕んだ状況下での対人関係において、どのように影響するかはあまり知られていませんでした。
そこで研究チームは今回、長きにわたって歴史的・政治的に対立関係にあるユダヤ系イスラエル人とパレスチナ系イスラエル人を対象に、「知的謙遜」の影響について調査を行いました。

本調査には、計533人のユダヤ系イスラエル人の成人が参加しました。
実験では、これらの参加者に、イスラエル国内で多数派であるユダヤ系イスラエル人(自分たちと同じ出自)と、少数派であるパレスチナ系イスラエル人(自分たちと異なる出自)の人物が、自らの感情的な体験を語る短いビデオクリップを視聴してもらいました。
その上でチームは、参加者が話者の感情をどのように感じ取ったか、話者自身が報告した感情状態と比較。
ここでは、相手の感情をどれだけ正しく理解し、共感できるかを調べています。
それと並行して、ビデオを見た参加者自身の感情反応を評価し、「知的謙遜」のレベルも質問票で測定しました。
その結果、知的謙遜のレベルが高い人ほど、他者の感情をより正確に読み取り、共感する能力が高いことが示されたのです。
特に、自分たちとは出自が異なり、ときに敵対することもあるパレスチナ系イスラエル人の話者のビデオを見た場合に、より顕著な効果が見られました。
つまり、知的謙遜が高い人ほど、歴史・文化的背景の異なる人々の事情を汲み取り、尊重する力が強かったのです。
さらに、知的謙遜のレベルが高かった人ほど、自らが感じる苦痛や不安、怒りなどの感情ストレスが少ないことも明らかになりました。
「相手の感情を理解して共感しながら、自らの感情的苦痛は少ない」、この心理状態を研究者らは「共感的回復力(empathic resilience)」と呼んでいます。
では、なぜ知的謙遜の傾向が強い人ほど、共感的回復力が高くなっていたのでしょうか?