かわいい進化の代償

生物学で言う「収れん進化」とは、本来血縁の遠い生物同士が同じような環境や選択圧のもとで似通った形質を獲得する現象を指します。
鳥類とコウモリが独立に翼を進化させて空を飛ぶようになったり、別系統の海生物がカニのような平たい体型に辿り着く――といった例が典型です。
進化において有利な特徴は異なる系統で繰り返し選ばれやすいため、収れん進化の出現はその形質の汎用的な有用性を示すものとも言えます。
今回明らかになった犬と猫の「ぶちゃむくれ顔」の収れんは、一見すると新たな適応形質のようにも見えます。
しかし重要なのは、これは自然選択による適応ではなく、人間の美的嗜好によって人為的に作り出された形質だという点です。
家畜化された動物では、短い期間でも強い選択圧がかかれば劇的な形質変化が起こり得ます。
ドレイク氏は「人々は進化には何百万年もかかると思いがちですが、遺伝的集団を隔離して強い選択を行えば短期間で驚くほど多様化させられます」と述べています。
ロソス氏も「私たちは5000万年かけて積み重なった違いを実質的に消し去ってしまったのです」と語り、人工選択の強大なインパクトに驚きを示しています。
こうした急速な進化の観察は、進化のメカニズムを理解するうえでも非常に貴重な事例になるでしょう。
一方で、私たち人間が「かわいい」と思うこのぶちゃむくれ顔は、動物たちに多大な負担を強いている面も忘れてはなりません。
短頭種の犬や猫では鼻や喉の空間が狭いため、慢性的な呼吸困難や運動・暑さへの弱さなどの健康リスクが報告されています。
頭骨形状の異常は眼や歯の位置にも影響し、角膜疾患や歯列不正、さらには脳や神経の圧迫による障害が生じるケースもあるようです。
頭部形状が大きく変化したことで、出産時に帝王切開が必要になるケースも少なくないと指摘されています。
このため欧米では近年、極端な短頭種の繁殖を制限しようとする動きが広がっています。
ロソス氏は「これほど極端なタイプを交配で生み出すべきではありません。動物たちの利益を第一に考えるべきです」と警鐘を鳴らしています。
ドレイク氏も「進化生物学的には興味深いですが、健康上の代償を考えると正当化は難しいです。動物の福祉を第一にすべきです」と述べています。
こうした極端な品種は人間の助けなしには野生環境で生き延びることが難しく、私たちが生み出した“収れん進化”の事例であると同時に、その“かわいさ”の裏にあるリスクを改めて考えさせられる研究結果といえます。
ソロス氏