小さな魚たちは「刺すイソギンチャク」を持ち歩きして生きている盾にしている
小さな魚たちは「刺すイソギンチャク」を持ち歩きして生きている盾にしている / Credit:Associations between fishes (Actinopterygii: Teleostei) and anthozoans (Anthozoa: Hexacorallia) in epipelagic waters based on in situ records
biology

小さな魚たちは「刺すイソギンチャク」を持ち歩きして生きている盾にしている

2025.10.17 18:30:49 Friday

アメリカのウィリアム・アンド・メアリー大学(W&M)に所属するヴァージニア海洋科学研究所(VIMS)で行われた研究によって、外洋の夜の海で幼い魚たちが、イソギンチャクの幼生を“刺すお守り”のように持ち歩いている驚きの行動が正式に観察記録として報告されました。

研究チームは、フロリダ沖やタヒチ沖での夜間潜水によって撮影された写真を分析し、カワハギやアジなど4つの魚のグループが、刺す能力を持つイソギンチャクの幼生を防御に利用している可能性を発見しました。

まるで自分の体を守るために“毒針付きの盾”を持ち歩くかのようなこの行動は、魚とイソギンチャクの共生関係がサンゴ礁だけでなく、広大な外洋でも成立しうる可能性があることを示唆しています。

この発見により、映画『ニモ』で描かれるイソギンチャクと魚の共生が実はもっと多様で、サンゴ礁だけでなく広大な外洋でも起こりうる可能性が示唆されました。

しかしなぜこのような愉快な姿は今まであまり知られていなかったのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年9月5日に『Journal of Fish Biology』にて発表されました。

Blackwater photos suggest new symbiosis between fish and anemones https://www.eurekalert.org/news-releases/1101041
Associations between fishes (Actinopterygii: Teleostei) and anthozoans (Anthozoa: Hexacorallia) in epipelagic waters based on in situ records https://doi.org/10.1111/jfb.70214

小さな魚が見つけた意外な守護者

小さな魚が見つけた意外な守護者
小さな魚が見つけた意外な守護者 / Credit:Associations between fishes (Actinopterygii: Teleostei) and anthozoans (Anthozoa: Hexacorallia) in epipelagic waters based on in situ records

魚が自分で「お守り」を持ち歩くなんて、なかなか想像できない光景です。

しかし、広く深い海の中で小さな魚の赤ちゃんたちが生き残ろうと必死になった結果、この驚きの作戦が生まれたのかもしれません。

私たちがよく知る魚とイソギンチャクの関係といえば、カクレクマノミをすぐ思い浮かべますよね。

映画『ファインディング・ニモ』の主人公「ニモ」でおなじみの、あのオレンジ色の小さな魚です。

カクレクマノミはサンゴ礁の海で暮らしていて、刺す能力をもったイソギンチャクの中に隠れることで敵から身を守っています。

針を持ったイソギンチャクを「家」として利用することで、安全な場所を確保しているんですね。

しかし、これはあくまでサンゴ礁や岩場の話です。

サンゴ礁は生き物たちが暮らすための隠れ場所が豊富ですが、外洋と呼ばれる広大で深い海の表面近くには、そんな都合のいい「家」になる場所はありません。

外洋は基本的に開けていて、隠れ場所がほとんどない世界です。

そんな外洋の厳しい環境で、幼い魚たちはどうやって身を守るのでしょうか?

実はこれまでにも、幼魚たちがクラゲなどの漂っている生き物に隠れて敵から逃れていることが報告されてきました。

少なくとも21科の幼魚が、クラゲやそれに似た漂う生き物を「動く隠れ家」として使うことが知られています。

ところが、この幼魚とクラゲの関係は、片利共生(かたりきょうせい)という一方的な関係だと考えられてきました。

片利共生とは、片方だけが利益を得て、もう片方には特にメリットもデメリットもない関係のことです。

幼魚はクラゲに隠れることで敵から身を守れるので得をしますが、クラゲ側は特に幼魚から得るものはありません。

むしろ、幼魚がクラゲをかじって食べてしまうことすらあるのですから、クラゲにとっては「食べ放題にされて迷惑だ」と感じる場合もありそうです。

さて、ここまでの話は、幼魚がクラゲなどの生き物に「隠れている」というだけでしたが、幼魚がイソギンチャクの幼生を自ら「持ち歩く」ことはないのでしょうか?

実は近年、この驚きの関係の手がかりを与えてくれたのが「ブラックウォーターダイビング」という新しい調査方法です。

ブラックウォーターダイビングとは、真っ暗な夜の外洋に潜って、ライトを当てながら小さな生き物を撮影する潜水方法です。

夜になると、多くのプランクトンや魚の幼生が暗い海の浅いところまで浮かび上がってくるため、夜の海はまるで「真っ暗な動物園」のような世界になっています。

こうした小さな生き物たちは昼間は見つけることが非常に難しいため、ブラックウォーターダイビングで初めて観察されるケースが増えているのです。

この方法で撮影された写真を研究者たちがじっくり分析したところ、外洋の幼魚がイソギンチャクの幼生を口にくわえたり、体のそばに置いたりして一緒に漂っている奇妙な様子が写っていたのです。

これを見た研究チームは「これは新しい関係なのではないか?」と考え、正式にこの関係を記録して報告することを目指しました。

まずは、実際にそうした関係が外洋で観察されたことをきちんと報告することが大切です。

さらに、幼魚とイソギンチャクがお互いに利益を得ている「相利共生(そうりきょうせい)」という関係になっている可能性を、ひとつの仮説として提案することが目的でした。

では、本当に幼魚はイソギンチャクを利用して敵から身を守れるのでしょうか?

そして、もしそうなら、イソギンチャク側にも何らかのメリットがあるのでしょうか?

これらの興味深い謎を明らかにするために、研究チームは外洋の不思議な世界にカメラのレンズを向けたのです。

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