逆さまの埋葬が示す「鏡の中の世界」
さらに興味深いのは、棺が逆さに埋められていたという事実です。
舟型棺は底が上になり、上部に立てられた櫂や杭だけが砂の中から突き出しています。
まるで水面の下に舟が浮かび、櫂だけが見えているかのようです。
このような「上下反転」した埋葬は、死者の世界が生者の世界を反転させた鏡像であるという思想を反映している可能性があります。
実際、同様の「逆さまの来世観」はスカンジナビアの青銅器文化、サハラの岩絵、古代エジプトの文献、アメリカ・グレートベースンの岩絵など、世界各地の文化に共通して見られるのです。
研究者は、この発見を次のように位置づけます。
「小河墓地の舟型棺とそれを取り巻く象徴体系は、単なる埋葬ではなく、死後の航海を再現した儀礼であり、水を介して生と死をつなぐ文化的表現である」

小河墓地は、中国西部の過酷な砂漠地帯で営まれた先史時代の葬送文化の中でも、特異な存在です。
そこには生と死、水と砂、現実と象徴、すべてが入り混じる不思議な世界観が広がっています。
舟型の棺が表すのは、単なる輸送手段ではありません。
舟は文化によって「魂の移動」「変化の通過儀礼」「別世界への橋渡し」を意味する普遍的な象徴です。
舟をひっくり返して埋めるという行為には、死者をこの世から切り離し、あちら側の世界=逆さの世界へと送り出す強い意志が込められていたのでしょう。
弔いの様式、古今東西さまざまありますが、なんとなくコアになる要素がありそうです。
船つながりだと、古代エジプトでは「太陽の船」にファラオの魂が宿り、夜明けとともに登り夜には冥界に帰るとされてたとか。「死者の書」には死者が船に乗り、いくつかの関門をくぐり、最後に審判を受けると。宗教感の写しになってます。
古代ギリシャやローマ帝国時代にも弔いの儀式はありそうですか、とんと読んだことがなく。不思議です。
鳥葬なんてのもあり、自然に返してやる儀式(と言うか、見た目は鳥がついばみやすいよう解体してやる)です。
ネアンデルタール人も死者に献花し、弔い、埋葬した遺構が残っているそうです。
こんな事に思いを馳せると、心のなせる技でしょうか、何らかの形を成して弔いたい気持ちの表れなんだろうなと思います。
境界異界があべこべってのは日本の民俗学でも指摘されてる通り。
真っ先に思い浮かべたのはエジプトの太陽の船だったけども、若干意味合いも異なる。。
これが東南アジアであれば、舟形屋根、神社建築の原風景、高床式に通じるとも思えたんだけど、、古代広く分布していたってのは面白い。