PDIは二重スパイのよう。DNAの損傷を修復し、がん治療を妨害する

研究の中で、チームはまず、ヒトのがん細胞とマウスの神経細胞においてPDIの発現を抑制する実験を行いました。
その結果、DNAに損傷を与えても、PDIが存在しないと修復効率が著しく低下することがわかりました。
次に、PDIを再導入すると、修復機能が回復することが確認されました。
さらに、PDIはDNA損傷の目印と同じ場所に集まり、損傷修復に関わっている様子が顕微鏡レベルで観察されました。
さらに、生きたゼブラフィッシュを用いた研究では、PDIを過剰に発現させたゼブラフィッシュでは、加齢に伴うDNA損傷の蓄積が抑えられることがわかりました。
これらの成果は、PDIが生体内で実際にDNAを修復していることを強く示唆しています。

今後、研究チームはこのPDIを使った治療法の開発を進めていく予定です。
特に、PDIを脳の神経細胞に送り届け、損傷修復を促すというアプローチが注目されています。
この方法が確立されるなら、アルツハイマー病やALSなど、今は根治が難しいとされる病気の進行を止める手段になるかもしれません。
また、PDIはがん細胞においても働いており、抗がん剤の効き目を弱める要因となることが知られています。
そのため、がん治療では逆にPDIの働きを抑えることで、治療効果を高めるという逆転の応用も考えられているのです。
研究チームは、次のようの述べています。
「PDIは二重スパイのようです。
健康な細胞ではDNAを修復し、病気の予防に役立ちます。
しかしがん細胞では、PDIが乗っ取られ、体ではなく腫瘍を守ってしまうのです。
だからこそ、PDIを完全に理解することが非常に重要だと言えます」
老化、神経疾患、がん——これらの治療の鍵を握っているかもしれないPDI。
その“DNA接着剤”としての力が、私たちを病気から救ってくれる日が来るかもしれません。