孤立から抜け出す「注意力」の用い方とは
トロップ氏は、現代人たちの孤立のループから抜け出すために、注意力という限られた資源を、意図的に他者に向けるよう勧めています。
たとえば、バス停で隣に座った人に目を向けて軽く会釈することができます。
また、エレベーターで乗り合わせた人に一言「こんにちは」と声をかけてみるのはどうでしょうか。

それだけで、「あなたを認識しています」というメッセージが伝わり、人は“自分の存在が承認された”と感じるのです。
こうした行動は「取引的(transactional)」な態度ではなく、「関係的(relational)」な視点で他者を見る姿勢から生まれます。
「取引的」とは、相手から何か得られるかどうかで接触の価値を判断する考え方です。
一方で「関係的」とは、たとえ利害がなくとも、人として相手を認識し、尊重する行動を重視します。
この姿勢の違いは、日常のささいな行動に大きな影響を与えるはずです。
例えば、レジで会計を済ませたあとに「ありがとう」と伝えるのは、利害に関係なく相手を尊重する行動です。
その一言が、店員にとって「ただの仕事」を「人との接触」に変えるのです。
あなたにとっての「ただの購買行動」も、やはり「人との接触」に変化することでしょう。
また、トロップ氏は、このような寛容さは“習慣”として鍛えることができると強調しています。
最初は意識しないと難しいかもしれませんが、少しずつ実践を重ねることで、自分の注意を周囲へと広げる感覚が自然になっていきます。

皮肉なことに、私たちはSNSで“いいね”を押す相手の顔も知らず、誰にも会わずに「つながっている気分」を味わう時代に生きています。
でも、リアルなアイコンタクトの0.5秒の方が、画面越しの100文字よりもずっと多くの情報と感情を伝えてくれるはずです。
この習慣は、最終的には自分自身にも恩恵をもたらします。
他者と関わることで、自分の存在も他者にとって意味のあるものとなり、幸福感や社会的つながりの感覚が高まるのです。
私たちの注意力は限られています。
だからこそ、その使い道を少しだけ変えてみるのはどうでしょうか。
スマホを鞄に入れたり、イヤホンの音量を落としたりして、誰かと目を合わせてみましょう。
今どきだと知らない人に挨拶なんてしたら数分後には不審者情報として「通り過ぎる人間に対して挨拶をする不審者がいました。近くの人は注意をしてください。」って周囲に出回りますから難しいと思いますね。