AIを使うと脳の「創造力」が育たなくなる

答えを得るために、研究者たちはまず18歳から39歳までの54人の成人を集めて実験を行いました。
参加者はエッセイを書く課題に挑戦しますが、このとき3つのグループに分かれて異なる方法で執筆します。
1つ目のグループはAI(ChatGPT)を使ってエッセイを書き、2つ目のグループはインターネットで検索しながら(ただしAIは使わずに)書き、3つ目のグループは何も使わず完全に人間だけで自力で書きます。
それぞれの参加者は約4か月の間に3回、20分間のエッセイを書く課題を繰り返しました。
研究者たちは、エッセイを書いている最中の脳の動きを調べるため、参加者の頭に脳波計を装着して、脳がどのくらい活発に動いているかを測定しました。
さらに、参加者が書いたエッセイについても、人間の先生やAIを使って内容の質を評価しました。
実験が進むにつれて、はっきりした結果が見えてきました。
自分の頭だけでエッセイを書いたグループは、脳が非常に活発に動いていました。
また検索エンジンを使ったグループの脳活動も比較的活発でした。
しかしAIを使ったグループは明らかに脳の活動が低下していたのです。
特に、自分で考えて計画を立てたり、新しいアイデアを生み出したりすることに関連する脳の働きが弱くなっていました。
また、書かれたエッセイの内容にも違いが見られました。
自分の頭だけで書いたグループの文章は個性的で創造性が感じられましたが、AIを使ったグループの文章は表現が画一的で、「まるで魂がこもっていない(soulless)ようだ」と評価されました。
さらに興味深い結果として、AIを使って書いた人は自分の書いた文章をあまり記憶していませんでした。
一方、自力で書いた人は自分の文章をよく覚えていて、文章への愛着や達成感も強く感じていました。
また実験を繰り返すうちに、AIを使い続けた人は徐々に文章を書く意欲が落ち、最終的にはほとんどをAI任せにするようになりました。
AIへの依存ができるグループでは実験開始時はAIを補助的に使っていた人も、3回目のエッセイを書く頃には「プロンプト(お題)だけ与えて、あとはほぼ全部ChatGPTにやってもらう」状態に陥ったといいます。
最終セッションで条件を入れ替えた際の結果も似たものでした。
3回にわたりAIに頼っていた人たちが第4回で急に自力執筆に切り替えられると、脳の活動は自力で練習を重ねて熟練レベルに達した人たちの水準には遠く達していないことが確認できました。
特に自己主導的な思考や創造性、批判的な認知プロセスを司るアルファ波やベータ波の活動は、自力での執筆を繰り返した熟練者のレベルと比べて有意に低いままでした。
つまりAIに依存した文章作成経験は初期段階から能力の退化をもたらしたわけではなかったものの、自力で頑張った人たちに比べて低い状態に留まっていたのです。
研究者はこの現象を「認知的負債(Cognitive Debt)」と名付け、AIに頼りすぎると自分で考える力が停滞してしまう可能性を指摘しています。
つまり、便利なAIを使い続けることで、私たちは知らないうちに脳の成長の可能性を鈍らせているかもしれないのです。