IQ格差をどう乗り越えるか

今回の研究によって、IQが高い人ほど未来の出来事をより正確に予測できる可能性が強く示されました。
これは私たちが普段なんとなく感じていた「頭が良い人は判断力がある」「IQが高い人は成功しやすい」といった漠然とした考えを裏付ける、非常に興味深い結果です。
その一方で、IQが低い人たちは予測の精度が低いばかりでなく、その予測が毎回安定せず、大きく揺れてしまうことが明らかになりました。
このような予測の揺れは、実際の人生の決断においてさまざまな問題を引き起こします。
例えば、老後の生活を考えてみましょう。
将来の寿命を過大評価して楽観的になりすぎると、「まだまだ元気でいられるから貯蓄はあまりいらない」といった判断になり、結果的に老後資金が不足してしまうリスクが高まります。
逆に寿命を過小評価してしまうと、「もう先は長くないから」と考えて生活を切り詰めすぎて、人生の楽しみを失ってしまうかもしれません。
どちらの場合も、現実と自分の予測がズレてしまうことで、大きな損失や後悔を生むことになります。
実際、研究チームも「将来についての予測が不正確であることは、個人レベルでの間違った経済的な決定を生み、それが積み重なると国全体の経済成長の低下や、人々の経済的な生活水準の悪化にもつながりかねない」と指摘しています。
なぜ高IQ者は予測力が高いのか?
これまでにも述べてきたように研究では予測力の差が生じる主な原因を次の3つに分けています。
第一に、「情報処理の質と量」が挙げられます。IQが高い人は、より多くの情報を素早く、かつ正確に処理する能力を持っています。そのため、さまざまな情報を総合して適切な判断を下せる可能性が高まります。逆に、IQが低い人は情報の量や質をうまく処理できず、結果として不正確な予測に繋がります。
第二に、「系統的な誤り(バイアス)」です。IQが低い人は、判断を簡略化するために、しばしば直感や感情に基づいたヒューリスティック(思考のショートカット)に頼ります。例えば、「印象的な出来事ほど頻繁に起こると誤認する(利用可能性ヒューリスティック)」といった傾向が強くなりやすく、これが予測を大きく歪ませます。
第三に、「判断のブレ(ノイズ)」が挙げられます。ノイズとは、同じ人が同じ状況で繰り返し判断をしても、状況とは無関係な要素(例えばその日の気分や天気)によって判断が安定しないことを指します。研究の結果、IQが低い人はこのノイズが非常に多いことが示されました。これは、判断が環境に左右されやすく、その結果として同じ問いに対しても回答が一貫せず、安定しないことを意味します。
まとめると、IQの高い人が未来予測において正確で安定しているのは、情報処理能力が高いこと、誤りの原因となる心理的な偏りが少ないこと、さらに状況に影響されることなく判断を一定に保てること、そして遺伝的な要素も加わった結果だと考えられます。この研究は、IQが単なる学力や知識の多さではなく、私たちの「未来を正しく判断する能力」にも密接に関係していることを示しています。
こうした問題が深刻になる前に、私たちは何か対策を取れるでしょうか?
研究者たちは一つの具体的な対策として、金融商品や健康リスク、医療情報など、人々が重要な意思決定をする際に使用する情報に、「確率」をはっきりと明示することを提案しています。
たとえば、「この金融商品で利益が出る可能性はおよそ〇%」や「この治療法で改善する可能性は〇%」といった情報が、事前に専門家から明確に提示されれば、確率を直感的に理解することが難しい人でも、より適切で正確な判断がしやすくなるでしょう。
私たちが人生の様々な局面で下す決定は、結局のところ「何%の確率でうまくいくか」を正しく理解することにかかっています。
それが得意な人と苦手な人の間には大きな差が生じ、人生の成功にも影響を及ぼしている可能性があるのです。
もう一つ、この研究が教えてくれる興味深い視点があります。
それは、人間が間違える原因は単なる思い込みや偏見(バイアス)だけではなく、毎回の判断が不安定で一貫性がない(ノイズ)という問題もあるという点です。
たとえば同じ人でも、その日の気分や周囲の状況によって判断がぶれてしまい、それが繰り返されることで重大なミスを犯す可能性があります。
こうしたノイズ(判断の揺れ)は、これまであまり注目されてきませんでしたが、最近では判断の質を向上させるために極めて重要だと指摘されています。
実際、医療現場では、医師の診断が日によってばらつかないように、チェックリストやスコア表を用いて判断基準を一定にする試みが行われています。
これと同じような工夫を日常生活やビジネスの場にも取り入れることで、私たちはより安定した判断を下せるようになるかもしれません。
私たち全員が高いIQを持つことは簡単ではありませんし、生まれつきの能力を大幅に変えるのは難しいでしょう。
しかし、今回の研究から得られた重要なヒントは、誰もが正しい判断をしやすくするための環境や仕組みを整えることが可能である、ということです。
つまり、確率を明確に伝えるような情報提示や、ノイズを抑えるような工夫を社会全体に広げることで、IQに関係なく誰もが適切な判断を行える可能性が広がるのです。
未来の不確実性を乗り越えて、より良い選択をするために、私たちはこの研究の成果をどのように活用していけるでしょうか?
その割には高IQの人しかいないはずのメンサとかの人って自分の将来正確に予知してるようには見えないのですけどね。
―研究者たちは一つの具体的な対策として、金融商品や健康リスク、医療情報など、人々が重要な意思決定をする際に使用する情報に、「確率」をはっきりと明示することを提案しています―
これはやめておいた方がいい。
確率を見せられて、「母数は?」「標準偏差は?」など疑問を持たない人は、切り取られたデータに簡単にダマサれる。