IQと予測力の関係を科学が解明

IQが高い人ほど、未来の出来事を正しく予測できるというのは本当なのでしょうか?
この謎を解明するために、研究チームはまずイングランドに住む約4,000人の中高年(50歳以上)を対象として、自分自身の生存確率の見積もりを尋ねました。
これは『自分が『75歳』『80歳』『85歳』歳まで生きる確率は何%くらいか』と尋ねる質問で、本人に将来の生存に関する主観的な予測を0%から100%の間で自己評価してもらいます。
研究チームは、この予測がどれほど正確なのかを知るために、イギリス国家統計局が発表している実際の統計的生存確率(人口統計に基づく客観的データ)と参加者の回答を一人ずつ丁寧に比較しました。
例えば、公式データで「80歳まで生きる確率が60%」の人が、自分では「90%生きられる」と回答した場合、これは楽観的な過大予測(実際より高い予測)ということになります。
逆に「自分が80歳まで生きる可能性は20%程度しかない」と答えたなら、それは悲観的な過小予測(実際より低い予測)に分類されます。
また、回答者ごとの生活習慣、健康状態、両親の寿命など、長生きに影響する可能性がある要素についても詳細にデータを集め、その影響を取り除いたうえで予測の正確さを評価しています。
つまり、純粋に個人の判断能力が測定されるように工夫されました。
次に研究チームが行ったのは、参加者一人ひとりのIQを測定することでした。
この調査では、言葉を覚えて思い出すテストや、簡単な計算問題、単語を使った連想ゲームなど、知能を広く評価する複数の認知テストが使われました。
また特に興味深いのは、参加者の遺伝子情報も分析されたことです。
これはなぜかというと、IQが高い人が将来の予測に優れているとすれば、それが生まれつきの遺伝的要素によるものなのか、それとも環境的な要因によるものなのかを明らかにするためです。
具体的には、遺伝子の中にIQや教育達成度に関連しているマーカー(ポリジェニック・スコア)があり、その数値を算出してIQと予測能力との関係を詳しく調べました。
これを「メンデル・ランダム化」と呼びますが、簡単に言うと、まるで「生まれつきIQの高い人」を無作為に選んで比べるような自然な実験手法です。
さて、これらの調査と分析の結果はどうなったでしょうか?
データが示した結果はとても明快でした。
IQが高い人ほど、自分が特定の年齢まで生きられる確率の予測が実際の統計データに近く高精度な予測を行っていることがわかりました。
具体的には、IQが約15ポイント(1σ)がるごとに、予測の誤差範はおよそ19.4%も減少し高精度になっていきました。
(※たとえば、ある人が「自分は80歳まで生きる可能性は70%くらいだろう」と予想したとします。もし統計データ上のその人の年齢や性別を考慮した実際の生存確率が約70%であれば、その人の予測誤差は0%に近く、非常に精度の高い予測ができているということを意味します。)
またIQが平均よりも約30ポイント(2σ)低い人では、予測の誤差が約26.37ポイントにも及び精度が大幅に悪化した一方、IQが2標準偏差高い人では誤差はわずか12.13ポイントにとどまっていました。
言い換えれば、IQが高いグループと低いグループを比較した場合、IQが低いグループでは高いグループの2倍以上の精度の粗さ(誤差の大きさ)が見られたことになります。
また精度とは別にIQの低い人では同じ質問でも、ある時はとても楽観的に「90歳まで100%生きるだろう」、また別の時は非常に悲観的に「60歳までは100%生きられない」と、予測結果のブレ幅が大きく増加していました。
やや心無い言い方をすれば「IQが低いと予測の正確性が低いだけでなく予測数値の幅も回答するたびにブレブレになってしまう」という結果です。
そしてさらに興味深いことに、このIQと未来予測能力の関係は、遺伝子レベルでも明確に確認されました。
遺伝的にIQが高いとされる特徴を多く持つ人は、予測の正確性が高く予測値のブレ幅も低いという傾向がはっきり現れました。
この結果は、予測能力が単に「IQが高い人ほど健康管理が得意で寿命を正しく予測できる」といった単純な理由だけでは説明できないことを示しています。
つまり今回の研究は単なるIQと予測力の相関関係を示すだけでなく遺伝情報を用いた因果的な関係がある可能性が示唆されており、IQそのものが、未来を予測する能力に重要な役割を果たしている可能性が強く示されたのです。
では、IQの高さがなぜ将来を見通す力に直結しているのでしょうか?