数学者は絡まった紐を研究する際、「ダイアグラム」と呼ばれる図を使います / 研究者たちは謎を解明するためまず、この2つつながった結び目を「目で見て分かりやすい図」に書き起こしました。 数学者は絡まった紐を研究する際、「ダイアグラム」と呼ばれる図を使います。 この図では、紐が交差する場所をはっきりと示すことで、絡まり方が一目で分かるようになっています。 今回、研究者たちは5本の紐を規則的に編み上げたような「ブレイド(組紐)」という形で結び目を表現し、結果として全部で20個の交差点(紐が重なっている部分)が存在する図を作りました。/Credit:Unknotting number is not additive under connected sum
研究者がこの操作を2回だけ行ったところ、驚いたことに、もとの複雑な結び目が一気に形を変えて、別のややシンプルな絡まりへと変化しました。 研究チームはこの新しい結び目に「K14a18636」という名前をつけましたが、簡単に言えば「たった2回の操作で別のもっと簡単な絡まりになった」ということです。 さて、この新しい結び目は完全にほどくにはあと何回の操作が必要でしょうか? 研究者たちはさらに実験を続けました。/Credit:Unknotting number is not additive under connected sum
新たな結び目をじっくり調べると、次にもう1回だけ紐の上下を入れ替える操作を行うだけで、さらにほどきやすい絡まり方(研究者が「K15n81556」と呼んだ結び目)に変化することが分かったのです。そしてさらにこの「K15n81556」という結び目を調べた結果、たった2回の追加操作で完全にほどけることが判明しました。/Credit:Unknotting number is not additive under connected sum
今回の研究の数学的な意義は非常に大きいものです。まずKirbyの問題リストの一項目が解決されたことは特筆に値します。ほどき数の加法性に関する問題1.69(B)は長らく未解決でしたが、本研究がその答えを「いいえ(加法的ではない)」と示したことで、結び目理論の教科書を書き換える成果となりました。同時に、この発見は今後の研究に新たな方向性をもたらします。まず、ほどき数の計算そのものへの影響です。これまで複雑な結び目のほどき数を見積もる際、「ひとまず素結び目に分解して個々のほどき数を調べ、それらを足し合わせれば上限がわかるだろう」とする考えが一般的でした。しかし今回の結果は、そのような単純な見積もりでは実際の必要手数を過大評価してしまう可能性を示唆しています。今後は結び目同士の「相互作用」によってほどきやすさが変化しうることを踏まえ、より精密な予測手法が模索されるでしょう。また結び目理論には今回解決されたほどき数の問題以外にも大きな未解決問題が残されています。その一つが「交点数」の加法性です。交点数とは結び目の図に現れる交差の最小数という、これもまた基本的な複雑さの指標ですが、これが連結和で加法的かどうかは100年以上前から難問として知られています。最小交点数の下限として「2つの結び目をつなげてできた結び目の交点の数は、元になったどちらかの結び目の交点数よりも少なくなることはない」ということは明らかですが、「2つの結び目の交点数をちょうど足し算した数になるかどうか」は100年以上にわたって解決されていない難問です。交点数については未だ誰も反例を発見していませんが、ほどき数の例にならえば「きっと交点数も単純には足し算にならない結び目が存在するのではないか?」と期待(不安?)する声も上がっています。/Credit:Unknotting number is not additive under connected sum