“同じチーム”感を強めるスイッチ
本研究の最も重要なポイントは、カップル間のゴシップ量が幸福感と「強く安定的に」関連し、関係の質とも(やや弱いながらも)関連したことです。
研究者は、カップルのゴシップが“情動的な結束”を生む可能性を指摘します。
たとえば飲み会やパーティーの帰り道に、ふたりだけの視点で「誰が何を言ったのか」「あの人たちは最近どう?」と語り合う場面を思い浮かべてください。
そこでは、外の世界を“ふたりで一緒に観察し、評価する”共同作業が生まれます。
この共同作業は、「私たちは同じチームだ」という感覚を強めます。
ネガティブな話題であっても“安全な文脈”――相手が自分を傷つける意図がなく、信頼が前提にある――で共有されると、関係内部の結束が強化されることがあります。
ポジティブな話題なら、イベント後の“楽しさの余韻”を延長する効果も期待できます。
結果として、つながりや信頼、親密さの感覚が高まり、全体的なウェルビーイング(幸福感)に寄与する――これが本研究の示唆です。

さらに、ゴシップは“社会的調整ツール”としての機能も持ちうると著者らは述べます。
たとえば「遅刻はやっぱり印象が悪いよね」「あの場面ではああ振る舞いたいね」といった合意が自然に形成され、ふたりの“行動規範”がすり合わされていく。
結果として、衝突を避けやすくなり、関係が調和的に回りやすくなるのです。
もちろん、ここで示されたのは“因果”ではなく“関連”です。
ゴシップが多いから幸せになるのか、幸せだから気軽にゴシップできるのかは、今後の検証が必要です。
また、今回の分析はゴシップのポジ・ネガの中身を区別していません。
内容やタイミング、量によっては不快感や信頼低下につながることもありえます。
鍵になるのは、安全な文脈と相互の信頼、そして相手を尊重する言い方です。
なお、本研究は2019年に同チームが実施した先行研究の知見とも整合します。
そこでは、女性が男性より“こき下ろし”型のゴシップを多くするわけではない、所得の低い人がより多くゴシップするわけでもない、若者の方が高齢者よりネガティブなゴシップをしがち、といった結果が示されていました。
つまり、「ゴシップ=悪口=女性(あるいは特定集団)が多い」という思い込みは成り立たず、ゴシップは人間関係の普遍的なコミュニケーション様式の一つとして捉えるのが妥当だ、ということです。
「ゴシップは悪」と決めつけるより、「ふたりだけの安全地帯で、お互いの見方をすり合わせる時間」として賢く使う――それが関係を温めるコツなのかもしれません。
大切なのは、相手への敬意と、第三者を必要以上に傷つけない配慮です。
うまく扱えば、ゴシップは“ふたりのチーム感”を強め、毎日の幸福度をじんわり底上げしてくれるはずです。