ホッキョクグマを苦しめる「夏」と「気候変動」
ホッキョクグマは内陸に移動し、時には断食に近い省エネ生活を余儀なくされます。
一部の研究では、「夏の間、ホッキョクグマは代謝を落としながらもある程度身体活動を維持して歩き回る状態になるのでは?」という説も出されました。
しかし後の大規模調査では、これは「普通の断食時の省エネモード」に過ぎず、冬眠とは異なることが判明しています。
その時のホッキョクグマは「通常の哺乳類の空腹レベルに近い」ものだったのです。
つまり、ホッキョクグマはメスの例外を除いて、冬でも夏でも冬眠しません。
他の哺乳類が冬眠するのは、その時期に食料が取れないためです。
ホッキョクグマは冬でも食料が得られるため、冬眠する必要はありません。
また夏は食料を得ることが難しくなるものの、冬眠するほど過酷ではありません。
こうした特殊な環境が「冬眠しないホッキョクグマ」を生み出しているのです。
しかし今、地球温暖化が北極圏の環境を大きく変えつつあります。
氷が減少し、夏が長くなることで、ホッキョクグマが狩りをできる期間が短くなり、夏の断食や栄養不足が深刻化しています。
ホワイトマン博士は次のように警告しています。
「ホッキョクグマは50万年以上にわたり海氷と共に生きてきましたが、現在の急激な温暖化は適応のスピードを上回っています。
多くの個体がこれまで通りの行動を続けるだけでは、生き延びられなくなる可能性が高いでしょう」
また、北極の頂点捕食者と思われがちなホッキョクグマですが、稀にニシオンデンザメ(学名: Somniosus microcephalus)の胃からホッキョクグマの骨が見つかることもあります。
“北極の王者”であっても、自然界では必ずしも無敵とは限らないのです。
冬眠しない“極寒の王者”ホッキョクグマの苦闘は、北極の厳しい自然と気候変動の影響を考えるうえで、私たちに多くの示唆を与えてくれます。