自由意志は思ったより狭い
人は日常生活の中で、たくさんの「選択」をしていますが、そのほとんどを「自分で決めた」「自由に選んだ」と感じています。
しかし、心理学では、こうした自分で意識して決めたと思っていることの多くが、実は「無意識(自分では気づいていない心の働き)」によって影響を受けていると考えられています。
無意識というと少し難しく聞こえるかもしれませんが、たとえば友達が食べているお菓子をなんとなく欲しくなったり、テレビのCMを見て商品が気になったりするような、普段から誰でも経験している現象です。
このように、私たちの心の中には、意識していないところで「選択を誘導する」小さな力がいつも働いているのです。
この「無意識による誘導」の具体的な例として、日常生活ではスーパーの棚に並んだ商品が挙げられます。
商品は、お店側が一番売りたいものを取りやすい場所に置いていますが、お客さんの多くは「自由に選んだ」と感じてしまいます。
また、雑誌やウェブサイトでも、目立つ場所に置かれた情報が自然と目に入り、私たちの行動をゆるやかにコントロールしています。
これらは決して悪意のある仕掛けではなく、無意識の「クセ」を利用した心理効果なのです。
研究者たちは、こうした日常の無意識的な誘導がどれほど強力なのか、またどのように働いているのかを科学的に調べたいと考えました。
そこで着目したのが、マジシャンがよく使う「カードのトリック」です。
は、観客に対して「どれでも好きなカードを自由に選んでください」と言いますが、実は、さまざまな小さな誘導を使って、あらかじめ決められたカードを観客が「自由に選んだ」と思わせるテクニックを使っています。
こうしたテクニックは、観客が無意識のうちに特定のカードを選びやすくなるように配置や手の動きを工夫することで成立しています。
今回の研究の目的は、このマジシャンの「カードトリック」を使って、人が自分の選択をどのくらい「自由だ」と感じるのか、またその自由さの感覚が、実際にはどれくらい無意識による誘導によって影響されているのかを科学的に明らかにすることでした。
この研究が成功すれば、日常のさまざまな場面で私たちが「自由に選んだ」と思っている行動が、実は気づかないうちに操作されている可能性について理解が深まることになります。