年齢を重ねると音楽の好みは狭くなっていく。”共有”から”私だけの音楽”へ
研究の結果、まず見えてきたのは、若い世代は現代のポピュラー音楽を広く聴き、思春期から成人期への移行でジャンルやアーティストの幅が最も広がるという傾向です。
流行曲の共有が活発で、プレイリストの重なりも大きくなります。
ところが、年齢を重ねるにつれて、その音楽の裾野は徐々に狭まり、自分の「好き」に合致した範囲を行き来するようになります。
このとき重要になるのがノスタルジー(懐かしさ)です。
中年以降になると、新しい曲をまったく聴かなくなるわけではありませんが、選曲の強い動機として「かつて親しんだスタイル」が効くようになります。
実際、研究チームは、高齢の利用者ほど再生の幅は狭いが、そのぶん好みがユニークで、同年代と重なりにくいという特徴も報告しています。
若者は「みんなが知っている曲」でつながりやすく、高齢者は「私だけの曲」に回帰していく構図です。
この変化は、人の心理と経験の積み重ねで説明できます。
音楽は記憶や自分史と結びつきやすく、人生の節目や日々の感情をまといながら「自分だけの意味」を帯びていきます。
新しい音楽を探索する冒険心は若いときに強く、年齢とともに安心感や自己同一性を満たす選曲が増えるのは自然なことです。
研究チームも「65歳で音楽の大冒険に乗り出す人は多くありません」と述べています。
さらに、この知見はレコメンデーション設計にも直結します。
すべてのユーザーに同じ基準でおすすめすると、世代ごとのニーズを取りこぼします。
たとえば若者には最新ヒットと未知の名曲を混ぜた提案が適しています。
しかし、中年層には新しさと馴染みのバランス、高齢層には個人の音楽史や思い出に寄り添ったきめ細かな推薦が好まれることでしょう。
音楽サービスが「いま目の前の履歴」だけでなく、人生スパンの嗜好変化を見据えることの重要性が強調されたのです。
年齢とともに音楽の好みが「狭くなる」と聞くと、少し寂しく感じるかもしれません。
でもそれは、あなたの中で音楽がより深く個人的な物語になってきたということでもあります。
ときには新しい音にも手を伸ばしながら、懐かしい一曲が運んでくる記憶や気持ちを、これからも丁寧に味わっていきたいですね。