科学的には「オナ禁の健康効果」を示す証拠は特にない
日本のネット掲示板でも、「オナ禁は体にいい」と言っている人たちを見かけますが、これは日本だけに限らず、海外でも「NoFap(ノーファップ)」 という呼び名でネット上に広まっています。
ただここで語られる健康効果には、特に科学的な証拠がなく、研究者の多くが「NoFap(オナ禁)」をネット上で展開される一種の思想的な運動と捉えています。
これが思想的な運動と捉えられていることに驚く人もいるかもしれません。しかしオナ禁は、科学的根拠の乏しい“疑似科学的な運動”と見られているのです。
例えばネットでは「オナ禁をすればテストステロン(testosterone)が増えて、活力や自信が高まる」「肌の状態がよくなった」などの報告があります。
テストステロンは筋肉や性欲、気分の安定に関わる男性ホルモンであるため、オナ禁の効果で上昇するなら確かに魅力的な効果が期待できます。
しかし、この噂を裏付ける信頼性の高い研究は特にありません。例えば、7日間射精を止めたらテストステロンが上がったという古い研究がしばしば引用されますが、被験者数が少なく、対照群が不十分、再現性に乏しい、という問題があります。
2001年にはドイツのエッセン大学病院が健康な男性を対象に、3週間の性的禁欲を行った後の血中のホルモンを測定した研究がありますが、こちらも一時的なテストステロンの上昇はあったものの長期的に安定した状態にはならなかったと報告されており、噂のような効果は否定されています。
そして、この実験も被験者数が10名と非常に少なく、結果を一般化できるほどの信頼性はありません。
そのため「オナ禁でテストステロンが持続的に増える」という噂を科学的に支持する証拠は現時点ではないのです。
オナ禁すると「精子の質が良くなる」という噂についても、不妊治療に関する臨床研究や、世界保健機関(WHO)の精液検査によれば、禁欲が長すぎると逆効果になることが報告されています。
たしかに長期間我慢すれば精液量や精子の濃度(単位あたりの数)は増えますが、精子の運動性は下がっており、DNAの損傷率も高まっているというのです。そのためWHOも、精液検査や妊娠を目指す際の推奨禁欲期間を 2〜7日間 としています。
このことから考えられるのは、「オナ禁で精子の質が良くなる」という主張も、単に精子の“濃度”が一時的に上がることだけを強調したもので、運動性やDNAの損傷といった重要な質の指標が低下するリスクを見落とした誤解であると言えます。
最後に「集中力やモチベーションが上がる」という主張です。
海外のNoFapコミュニティでは「自信がついた」「やる気が増した」といった体験談が数多く語られています。
こうした噂について、2020年にドイツの心理学チーム(Zimmer & Imhoff)が、北米を中心とする男性1,063人を対象に、Redditを通じたオンライン調査を行っています。この調査では参加者に禁欲の経験や動機、精神的健康などを測る心理学の質問票に回答してもらいました。
研究者たちは、もしオナ禁によって本当に集中力や健康が改善するのであれば、こうした心理調査でオナ禁を実施した人たちには「安定」や「生活の質」といった指標に差が出るはずだと考えました。しかし分析の結果、禁欲経験者とそうでない人の間に明確な違いは見られませんでした。
つまり「集中力が上がった」「やる気が増した」という感覚は、あくまで主観的な評価であり、標準化された心理調査票のような客観的な評価を行うと、特に差が出ないのです。そのためオナ禁の効果は実際にあるわけではなく、行動に対する期待で錯覚している可能性が高いのです。
このように、科学的な視点から見れば「オナ禁すれば健康になる」という噂は根拠に乏しく、信念や主観的な体験によって広まっている様に見えるのです。
では、なぜネット上ではこれほど広くオナ禁の健康効果が報告されたり、オナ禁を勧める人たちがいるのでしょうか?