自慰回数は時代と共に変わるのか?

マスターベーション、つまり「自慰行為」について、昔から根強い偏見があります。
よくあるのは、「恋人やパートナーがいない人が仕方なくするものだ」といったイメージです。
でも、本当にそうでしょうか?
実際のところ、恋人やパートナーがいる人でもマスターベーションをしていることは珍しくありません。
では、なぜ私たちはこんな誤解をしてしまうのでしょう?
この問題を理解するには、歴史的な背景に目を向ける必要があります。
かつて、欧米を中心にマスターベーションは宗教的にも医学的にも「有害な行為」と考えられてきました。
例えば19世紀のフランスの医学者デランドは、著書のなかでマスターベーションをこう表現しています。
多くの若者が、自らの『罪なる行為』が、健康や体力の基盤を密かに蝕んでいることにまったく気づいていない。
Many a young man … totally unconscious that his criminal act was sapping to the very foundation his health and strength. (L. Deslandes, 1839)
また、19世紀後半のアメリカで健康改革運動を行ったジョン・ハーヴェイ・ケロッグも、次のように書いています。
独習の悪癖(自慰)は、精神錯乱の最も一般的な原因の一つである。
That solitary vice is one of the most common causes of insanity(『Plain Facts for Old and Young』1881年改訂)
こんな風に、かつての社会ではマスターベーションは健康を害する「悪行」とみなされ、罪悪感や羞恥心を植えつけられてきました。
こうした背景から生まれた「マスターベーション=恥ずかしい」「異常なこと」というイメージが、現代まで根強く残っているわけです。
ところが、近年ではこうした偏見に対する見直しが進んでいます。
科学の研究が進んだ結果、マスターベーションが体や心に悪いという根拠はほとんど見つかっていません。
それどころか、最近の研究レビューでは、マスターベーションがストレスを減らしたり、睡眠の質を高めたりすることと関連があることが報告されています。
つまり、マスターベーションにはむしろ健康面で良い影響がある可能性が示唆されつつあるのです。
実際、かつては「恥ずかしい」「隠すべきこと」とされたセルフ行為ですが、徐々に文化的な偏見が薄れ、特に女性のマスターベーションについての社会的な許容度が高まってきたという指摘もあります。
ただ、こうした社会的変化が進む一方で、男性と女性とではセルフ行為をどういう状況で行うかに違いがあるという研究結果も以前から知られていました。
男性はパートナーとの性行為が少ないときに、その不足分をマスターベーションで補う傾向があるのに対し、女性は逆にパートナーとの性生活が充実しているときほど、セルフ行為も積極的に行う傾向があるという報告があったのです。
2000年前後のイギリスの調査でも、男性は性交の回数が増えるほどセルフ行為の頻度が低くなり、女性は性交の回数が多いほどセルフ行為の頻度も高くなるという傾向が示されていました。
しかし既存の研究は統一性がなく、大きな傾向を捕らえるには十分とは言えませんでした。
そこで今回、イギリスの研究チームが着目したのが、1999〜2001年と2010〜2012年に行われたイギリス全国調査(Natsal-2とNatsal-3)という2つの大規模調査データです。
マスターベーションに時代による変化や男女差はどの程度あるのでしょうか?