若者の「脳の霧」が10年で倍増、10人に1人が「考えにくい」状態だと判明
若者の「脳の霧」が10年で倍増、10人に1人が「考えにくい」状態だと判明 / Credit:Canva
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若者の「脳の霧」が10年で倍増、10人に1人が「考えにくい」状態だと判明 (2/3)

2025.10.28 18:00:01 Tuesday

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コロナ前の2016年から「考えにくい」人々が激増していた

コロナ前の2016年から「考えにくい」人々が激増していた
コロナ前の2016年から「考えにくい」人々が激増していた / Credit:Rising Cognitive Disability as a Public Health Concern Among US Adults  ―Trends From the Behavioral Risk Factor Surveillance System, 2013–2023

「考えにくさ」を訴える若者は増えているのか?

答えを得るため研究者たちは米国疾病予防管理センター(CDC)が長年続けている、全国規模の大規模電話調査のデータを使って分析しました。

今回使われたデータは、BRFSS(行動リスク要因監視システム)という米国の公衆衛生に関する全国的な調査によるものです。

BRFSSでは毎年、健康に関するさまざまな質問を米国内の成人に電話で行っています。

今回の分析対象になったデータは、2013年から2023年までの計10年間分で、2020年だけは新型コロナウイルス流行の影響で調査が十分に行えなかったため除外されています。

さらに、すでにうつ病を医師に指摘されている人も除外されました。

これは精神疾患による影響を除き、純粋に「考えにくさ」だけがどのように変化しているかを正確に見るための措置です。

調査で用いられた質問はとてもシンプルです。

「身体的、精神的、あるいは感情的な問題が原因で、集中したり、記憶したり、判断したりするのに深刻な困難を感じますか?」と尋ね、回答者は「はい」か「いいえ」で答えます。

この質問に対して「はい」と答えた人の割合が、「考えにくさ」を感じている人の割合として集計されました。

調査の回答数は延べ約450万件という非常に大規模なもので、若者から高齢者まで米国成人の幅広い実態を反映しています。

そして分析の結果、憂慮すべき事態が明らかになりました。

過去10年間で「考えにくさ」を感じる人の割合は明らかに増加していることが判明しました。

年代による人口比の違いを調整した全体平均で見ると、2013年には5.3%だったのが、2023年には7.4%に増加しています。

割合としては約4割(2.1ポイント)増加している計算です。

さらに注目すべきなのは、この増加傾向が2016年に初めて統計的にはっきり確認され、その後2023年まで一貫した上昇傾向が続いているということです。

つまり2016年が、若者を中心に「の霧」の広がりがデータで明確に確認された「転換点」だったわけです。

特に顕著なのは、18〜39歳という若年層の変化です。

2013年時点での割合が5.1%だったのに対して、2023年には9.7%とほぼ倍増していることが分かりました。

割合の差は4.6ポイント(約90%増)という非常に大きなもので、現在、若者の約1割が「考えにくい」と感じていることになります。

一方で対照的だったのは高齢層(70歳以上)で、2013年の7.3%から2023年には6.6%と、むしろ割合がわずかに低下しています。

従来は「歳をとるほど物忘れがひどくなる」と考えられていましたが、現在ではむしろ若者の方がこうした問題を訴える割合が高齢者よりも高くなっているのです。

さらに社会的な格差も見えてきました。

例えば、世帯年収3万5000ドル未満の低所得層では12.9%の人が「考えにくさ」を感じていましたが、7万5000ドル以上の高所得層では3.9%にとどまり、およそ3倍の差がついています。

また、大学を卒業した人では3.6%と低く、学歴が低いほどこの問題を抱えやすい傾向が見られました。

これは社会経済的に不利な状況にいる人ほど、「考えにくさ」の問題が深刻化しやすい可能性を示しています。

ここで改めて確認しておきたいのが、「考えにくさ」というのが医学的な病気の診断ではないということです。

認知症や軽度認知障害(MCI)とは別で、あくまで本人が自分自身で「集中しにくい」「記憶が難しい」と主観的に感じている状態を意味しています。

そうした主観的な感覚を信頼できないと感じる人もいるかもしれませんが、実際に自分で困難を感じる人が増えているという事実自体が重要なのだと研究チームは強調しています。

こうした主観的な困難感の増加は、将来的に個人の生産性を下げたり、医療的なサポートが必要になったりする可能性もあるため、社会全体にとって無視できない問題なのです。

次ページなぜ人々は「考えにくい」状態になってしまったのか?

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