「放射線に強い菌」を食べたハエの放射線耐性が増加したと判明
「放射線に強い菌」を食べたハエの放射線耐性が増加したと判明 / Credit:Canva
biology

「放射線に強い菌」を食べたハエの放射線耐性が増加したと判明 (3/3)

2025.12.16 21:00:20 Tuesday

前ページ放射線耐性菌を食べたハエに起きた変化

<

1

2

3

>

放射線防御サプリのヒントになるか?

今回の研究により、放射線耐性を持つ真菌A.プルルランスをエサとして与えることで、被曝後のショウジョウバエのオスでは寿命や腸の状態が良くなる傾向を示す放射線防護の手がかりが示されました。

研究チームは、このカビ食で腸の損傷(とくに核の形の乱れ)が和らぎ、それが生存の改善に関わる可能性があると考察しています。

放射線による被害を“食べ物の力”で減らせる可能性を示した意義は大きいでしょう。

さらに論文の著者らは、A. pullulansを「高等生物でも試す価値のある有望な放射線防護候補」だと述べています。

特に腸は放射線治療でもダメージを受けやすい急所であり、本手法は放射線療法を受ける患者の副作用軽減につながる潜在力があると考えられます。

例えば、がん放射線治療中の患者にこの菌由来の成分を投与して腸を保護できれば、治療の安全性とQOL(生活の質)向上につながるかもしれません。

実際、現在の医療でも腸が大きく傷つくタイプの急性被曝を事前に防ぐ方法は限られており、ビタミンEの一種(ガンマトコトリエノール)などが動物実験で研究されています。

したがって、今回のようなアプローチは放射線による胃腸ダメージを抑える新たな有用菌に似た発想として注目されます。

研究チームは、放射線被曝による損傷を減らす新たな方法として、まず放射線療法の患者が恩恵を受ける可能性があると指摘しています。

ただ人間で同じように効果が得られる保証はなく、安全性の検証も必要です。

またA. pullulansが放射線防御に寄与した具体的な成分や仕組みも特定できていません。

それでも、「他の生物が持つ耐性を食べて取り込む」という一見夢物語なアイデアが、現実の実験である程度支えられた意義は大きいと言えます。

放射線防護というと重厚な装備や薬剤を思い浮かべますが、全く別発想の有用菌に似たアプローチが拓けたことになります。

安全性が確認されたうえで微生物の力で被曝耐性を底上げできれば、医療だけでなく宇宙開発・原子力事故対応など様々な分野で恩恵があるかもしれません。

研究チームは今後、マウスなど高等生物での追試や、菌が作り出す防護物質の特定が課題になると述べています。

次のステップとして、放射線耐性菌から抽出した有用成分をサプリメントのような形で投与し、防護効果を検証するといった展開も考えられます。

もしかしたら未来の世界では、放射線に晒される前に「放射線防御サプリ」のようなものをひと飲みするだけで準備完了、という時代が来ているのかもしれません。

<

1

2

3

>

「放射線に強い菌」を食べたハエの放射線耐性が増加したと判明 (3/3)のコメント

ゲスト

食べて強くなるのは夢物語、言うほど夢物語でしたっけ?
体は食べたもので出来ていますよ。
強くなりたければ食らえってやつです。

ゲスト

オスとメスで効果に差が出た理由が気になりますね。単純に考えるとオスの腸の状態をメスに近づけたということになりますが。

鈴木

(似非医学の「ビタミンC大量投与療法」はがんには効かなかったけど)経口投与で放射線被爆への耐性を高める物質があるなら、パイロットやCAなど一般市民より高い被爆線量基準の職種の方に、「搭乗前にカビから作った抗酸化剤を一錠服用」なんて時代がくるかもしれませんね。

    鈴木

    自己レスです
    抗酸化作用のあるビタミンEが効きそうなら、放射線のエネルギー開放で生成した活性酸素やフリーラジカルによる連鎖反応を止めてくれる抗酸化作用&腸壁を通りやすいものなら何でも効きそうです。
    (ヒトの被爆急性症状なら腸壁とか骨髄幹細胞、毛根などの細胞分裂が盛んな組織が感受性が高いでしょうが)羽化して自由生活するハエ成虫の体細胞は分化が進んだ細胞しかなさそうです。精子形成は幼虫期から蛹期には完了しているでしょうから、ハエ成虫オスは、ハウスキーピングしている細胞が被爆からある程度生き残ればやっていけそうです。ハエメスの卵巣の成熟は成虫となってエサを頬張ってからでしょうから、被爆の影響をモロにうけちゃうのかしら?
    嫌気的な環境でポンコツなミトコンドリアを稼働させている生物は、漏れてくるラジカルや活性酸素を強力な抗酸化物質で処理しているに違いないから、(水溶性で細胞に行き渡りにくい植物カテキン類より、構造に窒素を含み脂肪に溶けうる多環化合物を作れる)菌類を検索する価値が大いにありそうです。

シンノスケ

本記事はなかなか興味深い内容ですが、具体的な試験条件や内容が不明なので、元論文のPDFをダウンロードして図表を眺めること1週間。疑問は氷解せず、むしろ別の疑問が出てきました。
標準のコーンミールを食べたショウジョウバエの生存期間は、ガンマ線無照射の対照区のメスが110日、オスが90日です。1000Gr照射するとメスは19日、オスは14日になります。そして、放射線耐性のA.pullulansの菌体ペーストを2日間エサにしてから1000Gr照射すると、メスは対照区と同じ19日ですが、オスは約15日に延びています。このわずかな遅延から、「食べる放射線対策が効果を発揮した」と言えるのでしょうか?
一方、条件を変えて、ガンマ線を700Gr照射した場合の生存期間は、メスで29日、オスで20日でした。そして、別の放射線耐性であるR.taiwanensisをエサにした後に700Gr照射すると、メスは約24日、オスは約18日とかなり短縮します。この原因を検討することは必要だと思います。
別の疑問として、ショウジョウバエの系統や低線量のガンマ線の影響が気になります。まず、供試した系統は白色変異体のW1118系統であり、放射線の照射によって発生する活性酸素に弱い系統だそうですが、生存曲線を見るとオスの挙動がかなり不審です。典型的なシグモイド曲線ではなく、生育30日頃まで急な生存率の低下を示し、その後70日頃まで低下せずに平坦になり、80日頃からまた急な低下を示しているのです。
このような生存曲線は、ある生育阻害物質に対して感受性が異なる系統が混在している場合に認められることが多いので、おそらく、エサの中に軽微な阻害物質が存在し、ハエも純系ではなかったと考えられます。
一方、メスの生存曲線はほぼ一定の漸減なので、謎の阻害物質の影響は受けていないようです。
低線量のガンマ線の影響も不思議です。200Gr照射した場合、メスの生存率は無照射と同じく緩やかに漸減しています。一方、オスの初期はメスより緩やかであり、35日頃から急減します。つまり、オスに低線量のガンマ線を照射すると、初期の生存率はメスより高く、さらに無照射のオスより高いのです。あたかも、謎の阻害物質の影響がキャンセルされたかのようです。
以上から、元論文や本記事の提案にはあまり賛同できません。

コメントを書く

※コメントは管理者の確認後に表示されます。

0 / 1000

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

生物学のニュースbiology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!