会話相手前でスマホを操作させる心の仕組み

会話相手の目の前でスマホを操作する「ファビング(スマホ無視)」の背景にどんな心理が潜んでいるのか?
謎を解明するため研究者たちはドイツ語圏に住む18歳以上の成人213名を対象に、愛着スタイル(不安・回避傾向)、物質主義の度合い、そしてファビングの頻度についての調査を行いました。
その結果、愛着不安(見捨てられたくない不安)が強い人ほど、自分でファビングをしてしまう頻度が高く、相手からファビングされていると感じる頻度も高い傾向(正の関連)が見られました。
不安型の人は「拒絶されていないか」を過敏に監視しやすく、相手のスマホを“無視されたサイン”として受け取りやすいと考えられます。
しかし見捨てられたくない不安が強い人が、わざわざ相手に嫌われそうなファビングを自分から行っているように見えるのは、少し矛盾しているようにも感じられます。
ですが本と違いスマホの中には、ある意味で、動的な「社会」や「人間」が存在します。
そのため見捨てられたくない不安がある人は、スマホ内の人々が気になりやすく、会話相手の目の前でもファビングをしてしまう傾向があるのかもしれません。
実際、研究では、愛着不安が高い人ほど、自分の価値をモノや数字で測る傾向(物質主義)が強く、物質主義が高い人ほどファビングの頻度も高いことが報告されています。
スマホの中にある社会や人間からの「イイネ」やフォロワー数などの数値が気になってしまう状態、と言いかえることもできるでしょう。
一方で、愛着回避の強い人では、少し違うパターンが見えてきます。
愛着回避(近づかれたくない)の人は、もともと親密さや甘えを「ちょっと重い」と感じやすく、心の中で距離を保とうとするタイプだと説明されています。
そう考えると、本来であれば「自分からスマホに逃げやすく、相手のスマホはあまり気にしない人」としてイメージされがちです。
しかし実際のデータでは、「自分がどれくらいファビングしているか」との関連はぼんやりしている一方で、「相手からファビングされている」と感じる側には小さなプラスの関連が出ていました。
ふだんはあえて深く踏み込まず、スマホをいじることでちょうどよい距離感を保とうとしているため、自分のファビングは「必要なクールダウン」くらいに感じている人もいるのかもしれません。
その一方で、自分がすでに距離を取っているぶん、相手がさらにスマホに意識を向けると、「そこまで引かなくてもいいのに」とか「本当に自分から離れたいのかもしれない」と、少し極端に“引きすぎ”として受け取りやすい可能性があります。
実際、論文では愛着回避が高いほどモノや数字で自分の価値を確かめる傾向(物質主義)も高くなり、物質主義が高い人ほど「相手にファビングされている」と感じる頻度も高い傾向が示されています。
つまり、「あまり近づきたくない自分」と「モノや数字には敏感な自分」が重なることで、相手のスマホの向こう側にある“世界”がますます気になり、「自分はその世界からはじかれているのではないか」と感じやすくなる——そんな心の動きが、愛着回避とファビングのあいだにある程度映し出されていると解釈することができます。
以上の結果は、対面中についスマホを見てしまうファビング行動の背景には、人間関係における不安感とそれに結びつきやすい物質主義的な心理が関与している可能性が示されました。
言い換えると、「誰かに必要とされていたい」という心の不安が強い人ほど、スマホの通知やSNSの反応といった外部の数字に頼って安心を得ようとし、その結果として現実の相手よりスマホに注意を向けてしまう傾向があるということです。
誰かに必要とされたいのならば目の前の相手に真剣に向き合えばいいはずですが、現代のスマホ社会では代わりにスマホに逃げてしまうわけです。
この知見は、人前でスマホを触る癖をただ「失礼だ」と非難するだけでは根本的な解決にならないことを示唆しています。
むしろ、その人が抱える孤独感や不安感にアプローチし、スマホ以外から安心を得られるよう支援することが、ファビングの減少につながるかもしれません。
実際、研究チームも愛着不安や物質主義の傾向に働きかけることで、ファビング行動をとくに「自分がする」方で和らげ、人間関係の質を高められる可能性に言及しています。

もっとも、今回の研究は統計に基づく相関研究であり、ファビングの脳科学的な原因や神経科学的な原因については述べられていません。
それでも、個人の内面にある不安感とスマホ使用行動のつながりを示した今回の成果は、デジタル時代の人間関係を考える上で貴重な示唆を与えてくれます。
今後は、愛着不安を和らげる訓練や、物質主義的な考え方を転換する教育などを通じて、スマホに過度に依存せずに安心感を得る方法を探る研究が進むかもしれません。
著者らは、今後の課題として、FoMO(Fear of Missing Out:取り残される不安)をモデルに組み込み、その役割をよりはっきり検証する必要があると述べています。
もし今度、会話中の相手がスマホを触る場面に出くわしたら単に怒るのではなく、「この人の中には、どんな不安や価値観があるのだろう」と一呼吸おいてみることで相手の理解が進むかもしれません。


























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