顔の線維芽細胞が「瘢痕を作りにくい」理由
研究チームは次に、顔と体の線維芽細胞がどのような遺伝子を使って働いているのかを詳しく調べました。
その結果、顔由来の線維芽細胞では、ROBO2とEID1という遺伝子が、体幹部由来の線維芽細胞よりも強く働いていることが分かりました。
これらの遺伝子は、傷を治す過程で「瘢痕を作る方向に細胞を動かす役割」を持つEP300というたんぱく質の働きを抑える経路に関わっています。
体幹部の線維芽細胞ではEP300が活発に働き、瘢痕に関わる遺伝子がたくさん働くことで、多くのコラーゲンが作られ、しっかりとした瘢痕組織が形成されます。
そのため傷は閉じますが、硬く目立つ瘢痕が残りやすくなります。
一方、顔の線維芽細胞では、ROBO2とEID1の作用によってEP300の働きが抑えられています。
そのため、瘢痕を作る遺伝子が過剰に働かず、皮膚が元の状態に近い形で修復されやすくなるのです。
言い換えれば、顔の皮膚では「瘢痕を作るスイッチ」が入りにくい状態が保たれていると考えられます。
この仕組みの重要性は、線維芽細胞を使った実験でもはっきり示されました。
EP300の働きを抑える薬剤を用いて、背中の傷を治療すると、体の傷であっても、顔の傷のように瘢痕が目立ちにくい治癒が起こることが確認されたのです。
もっとも、この研究はマウスを使った実験であり、人間でも同じ結果が得られるかどうかは今後の研究を待つ必要があります。
また、瘢痕を完全になくす治療がすぐに実現するわけではありません。
しかし、瘢痕の出やすさが、生まれつき備わった細胞の性質によって左右されていることを示した点は、皮膚だけでなく、肺や肝臓などの臓器で起こる線維化の理解にもつながる可能性があります。
顔の傷が目立ちにくい理由は、単なる偶然ではありません。
細胞がどのように傷を治すかという「基本設計」が、体の部位ごとに違っていることを、この研究は明らかにしました。


























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跡にはなりにくいけど治りは遅くなりそうですね。