「驚き→美」の流れを利用するデザイン

この研究でいちばんおもしろいところは、一見異なる「見た目どおりの作品のほうが人気がある」という結果と、「脳で驚きのサインが強く出た作品ほど、美しいと感じる人が多い」という結果が、同時に成り立っている点です。
いかにも矛盾しているように見えますが、著者たちはこれはむしろ、私たちが美しさを感じるための「ちょうどよい条件」を示しているのだと説明しています。
鍵になっているのは、「予測誤差には多すぎても少なすぎてもよくない“甘いスポット”がある」という考え方です。
予想どおりの作品は安心できて、気持ちよく味わいやすい反面、驚きがほとんどありません。
逆に、予想を大きく裏切ってしまう作品は、「なんだこれは」と戸惑いが強すぎて、そもそも理解しようという気持ちになれないこともあります。
そのあいだの、少しだけ予想をはずしてくる作品こそが、「最初はよく分からないけれど、見たり触ったりしながら考えていくうちに、だんだん意味が見えてくる」という体験を与えてくれるのです。
この「ちょうどよい驚き」をうまく処理できたときに、「美しい」という感情が強く立ち上がるのではないか――これが、著者たちの解釈です。
ここで重要なのは、気持ちよさそのものよりも、「どうしてこうなっているのか」を自分で考え、答えにたどりつく過程だとされています。
実際、この論文では、脳の「驚きサイン」と結びついていたのは快楽ではなく美しさだけであり、その結びつきは快楽が高いほど弱まる、と報告されています。
つまり、ただ「触っていて心地よい」状況では、あまり考えなくても満足してしまうので、美しさ特有の深い体験にはつながりにくいのかもしれません。
この結果は、「美しさには思考が必要だ」という、別の心理学研究の結論とも響き合っています。
パズルが解けた瞬間や、最初は意味が分からなかった詩や小説の一節が、ふと腑に落ちる瞬間を思い出してみてください。
そのとき感じる「なるほど、そういうことか!」というスッキリ感は、ただ楽しいだけのゲームや、分かりきった話を聞いたときとは、質の違う満足感をもたらします。
また著者たちは論文にて、驚きのサインが「ここに予想外のことが起きているよ」と脳の中で旗を立て、そのあとに続く、より高いレベルの考えや感情の動きを呼び起こしている可能性があるとも述べています。
「美しさ」が、単に心地よくて分かりやすいものではなく、「一度つまずいた違和感を、自分の頭でうまく乗り越えたときのごほうび」なのだとしたら、私たちの身の回りのデザインの考え方も変わってくるでしょう。
言い換えれば、美しさは「気持ちいい」の単なる上位互換ではなく「驚き」というスパイスで目を覚ます別腹なのかもしれません。
このような研究結果は幅広い応用が考えられます。
たとえば博物館や科学館でも、ただ説明パネルを読むだけでなく、「触るとびっくりするけれど、仕組みを知ると“なるほど!”と腑に落ちる展示」を増やすことで、学びと美的体験を同時に提供できるでしょう。
さらにスマホの背面、文房具の触感、服の素材感、化粧品の容器、ゲームのコントローラー……触った瞬間に脳がちょっと驚いて、すぐ納得できるような設計ができれば、快さとは別の“美の満足”を作れるかもしれません。























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ここで言う美しさって味わいやスルメに似てるのかも。自分で考えた事には確かに、ただ与えられたものとは違う感覚がある。