陰謀論にハマった恋人は「そこにいるのに、もう別人」だった
陰謀論にハマった恋人は「そこにいるのに、もう別人」だった / Credit:Canva
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陰謀論にハマった恋人は「そこにいるのに、もう別人」だった (2/3)

2026.02.11 18:30:38 Wednesday

前ページなぜ議論が通じないのか──陰謀論が「世界の土台」になる瞬間

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陰謀論によって恋人関係が壊れていく4つのパターン

陰謀論によって恋人関係が壊れていく4つのパターン
陰謀論によって恋人関係が壊れていく4つのパターン / Credit:Canva

陰謀論は恋人関係をどのように変えてしまうのか?

答えを得るために研究者たちは、陰謀論を信じる人のパートナー(または元パートナー)17人に、音声や映像でじっくり話を聞きました。

話された内容は文字に起こされ、「似た話はどれか」「何が繰り返し起きているか」を付せんのように整理し、いくつかの大きな流れにまとめていきます。

いわば、バラバラの体験談から“共通のパターン”を掘り当てる作業です。

その結果、4つの大きな共通パターンが見えてきました。

最初に現れるのは、陰謀論による「関係のこじれ」でした。

多くの参加者は「事実を見せれば分かってくれる」と思い、記事や資料を示して議論します。

ところが現実は逆で、何を見せても「それは仕組まれた情報だ」「主流メディアにだまされている」と跳ね返され、話し合いは空回りしがちでした。

「どんな証拠を見せても、彼の信じたい話と少しでも合わなければ『それは大手メディアのウソだ』『影の政府に金をもらってるだけだ』と言われるんです。そのうち、“ああ、これはもう完全にムダなんだ”って、はっきり分かってしまいました。」ある参加者の言葉

しかも議論が長引くほど、相手の言い方がきつくなり、「洗脳されている」「羊だ」「敵だ」といったレッテルまで飛んでくる。

こうなると、会話は“交換”ではなく“攻撃”に変わります。

耐えきれずに「その話はしない」と避けると一時的に静かになるのですが、次の問題は、陰謀論が日常のあらゆる話題にくっついてくることでした。

ニュースだけでなく、健康、学校、街の出来事まで何でも材料になるので、避けようとしても避けきれないのです。

そして、このひずみが深まった先で起きるのが、研究者たちが「心理社会的な死」と呼んだ感覚です。

言い換えれば、相手の体は同じなのに、性格や世界の見え方が別物になっていくことを示します。

動画や投稿を追いかけるのが生活の中心になり、家族や友人とも距離ができ、怒りっぽく、攻撃的で、でも同時に怯えるようになることもあります。

その結果、当時のパートナーを「知らない人みたい」「入れ替わったみたい」と表現する人までいました。

「彼女は“私は何も変わってない”って言うんです。でも、本当に同じ人なんでしょうか。人って、信念とか、願いとか、世界の見え方で形づくられていると思うんですよ。それが全部ガラッと入れ替わってしまったとき、それでも“同じ人”って言えるんでしょうか。」ある参加者の言葉

2つ目のは「信じていない側へのダメージ」です。

相手を説得しようとする努力は、精神力を削ります。

眠れない、強い不安や慢性的なストレスが続く、気分が落ち込む、お酒が増えるといった話が出てきます。

さらにやっかいなのは、相手があまりにも確信に満ちているために、「もしかして自分のほうがおかしいのか?」と自分の感覚まで揺らいでしまうことです。

近い人ほど、私たちは「同じ現実を見ている」という感覚で支えられています。

そこが崩れると、足場ごとぐらつくわけです。

「私はただでさえ不安になりやすい性格なのに、彼が延々と陰謀の話をするせいで、もっと不安になってしまって…。夜も眠れなくて、お酒の量がどんどん増えていきました。」ある参加者の言葉

子どもがいる場合は、負担がもう一段重くなります。

陰謀論の内容が医療に関わると、予防接種や受診をめぐって現実のリスクが生まれるからです。

研究では、子どもが予防できたはずの病気で入院した、という切実な語りもありました。

恋人関係の問題が、家庭の安全設計そのものになってしまう瞬間です。

3つ目は「理解しようとする努力」です。

ここが少し皮肉で、でも人間らしいところです。

パートナーたちは、陰謀論を論破するためというより、「なぜこんなことになったのか」を理解して自分を保つために、陰謀論や発信者について徹底的に調べ始めます。

結果として、当事者が“陰謀論の専門家”みたいになってしまう。

さらに相手を、依存やカルトのようなものに巻き込まれた「利用される側」と見なし、発信する側を「もうけのために不安を売っている人たち」と捉える語りも目立ちました。

恋人への情があるからこそ、「あなたが悪い」と切り捨てるより、「何かに絡め取られた」と理解したくなるのかもしれません。

4つ目は「支援探しと終わり方」です。

友人や家族に相談できた人もいますが、「それくらいで?」と軽く扱われたり、逆に「あなたが止められなかったの?」と責められたりして、孤立するケースもありました。

ネット上の支援コミュニティに救われた、という声が出る一方で、現実社会では“理解されにくい悩み”になりやすいのです。

最終的に多くの関係は悪化し、実際にインタビュー時点で多くが別れていました。

ただし、離れたくても、長い交際歴、子ども、お金、住まい、在留資格などの事情が壁になり、簡単には終われない場合も語られています。

そして別れた後には、「地獄の一年が終わってやっと眠れた」という安堵と、共同で子育てを続けなければならない現実的な苦労が、同時にやってくることもありました。

では、これらは結局何を意味するのでしょう。

ポイントは、陰謀論が「ひとつの意見」ではなく、「世界を見るための眼鏡セット」になりやすい点です。

眼鏡が違えば、同じ出来事を見ても意味が変わります。

こちらが“根拠”だと思って差し出したものが、相手の世界では「仕組まれた証拠」として即座に無効化される。

こうして二人は、同じ家にいながら別々の現実に住むことになります。

恋愛や夫婦関係がうまく回るために必要な「現実の共有」が崩れたとき、衝突、沈黙、喪失感、そして消耗が連鎖していく――研究が描いたのは、その“壊れ方の地図”でした。

次ページ失われたのは恋人か、それとも「共有していた現実」か

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