キスは唇よりも「頭の中」から始まる
今回の研究で特に重要なのは、「キスが好きかどうか」を直接測ったわけではない点です。
焦点となったのは、「良いキスの定義」です。
統計的な分析の結果、キスの評価は大きく三つの要素に分かれました。
匂いや味などの「感覚的な側面」、身体接触と興奮を含む「接触と興奮」、そしてスタイルの一致などを含む「テクニック」です。
日中の親密な空想傾向と関連があったのは、このうち「接触と興奮」の要素のみでした。
つまり、空想が多い人は、キスの匂いや味よりも、「どれだけドキドキするか」「どれだけ触れ合うか」を重要だと感じやすいのです。
ここで誤解してはいけないのは、空想が多い人が必ずしも性欲が強いわけではないという点です。
研究では、一般的な性的欲求や想像力の豊かさを統計的に差し引いても、日中の親密な空想傾向と「接触と興奮」を重視する傾向との関連は残っていました。
これは、単なるリビドーの高さや“クリエイティブさ”ではなく、「親密さを日常的に思い描く習慣」そのものが、キスの意味づけに影響している可能性を示しています。
では、なぜそのような結果になるのでしょうか。
研究自体は因果関係を証明していませんが、一つの解釈としては、「心の準備状態」が挙げられます。
日中にパートナーとの親密な場面を想像している人は、キスを単なる挨拶や習慣ではなく、“親密さの延長線上にある行為”として捉えやすいのかもしれません。
言い換えれば、キスは唇で始まるのではなく、頭の中で始まっている可能性があるのです。
実生活に当てはめてみると、興味深い示唆が得られます。
たとえば、「最近キスしてもドキドキしない」と感じるとき、その原因はテクニックや相性だけではなく、日常の中で相手を“恋人として想像する時間”が減っていることかもしれません。
また、パートナー間でキスの好みが違う場合、それは性欲の差ではなく、親密さを思い描く頻度の違いが影響している可能性もあります。
もちろん、この研究には限界もあります。
データは一時点で集められた横断研究であり、空想がキスの好みを変えるのか、それともキスの経験が空想を増やすのかは分かりません。
また、参加者は主にイギリスとイタリアの成人であり、キスが文化的に一般的でない社会に当てはまるかどうかも不明です。
今後は、カップルを長期的に追跡する縦断研究や、実験的に「パートナーについて空想する機会」を増やしてみるような研究などが求められます。
そうした研究が進めば、「親密さを思い描くこと」が実際に身体的な親密さにどう影響するのか、より明確になるでしょう。
今回の研究が教えてくれるのは、キスの意味は一律ではないということです。
情熱的なキスを求める人と、そうでない人の違いは、唇の感覚ではなく、日常の中でどれだけ相手を思い描いているかにあるのかもしれません。
キスはただの接触ではなく、その人の“心の習慣”を映す鏡なのです。




























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