失礼な言葉になってしまった「ご苦労様」
言葉の意味ではなく、社会的な使用実態が「マナー」という後付けのルールによって変化する事例も存在します。
その一例が、「ご苦労様」の使われ方の変遷です。
かつては「目下から目上へ」も使われていた
「目上の人に『ご苦労さまです』と言うのは失礼」という説明は、ビジネスマナーとしてよく耳にします。
しかし、明治時代から昭和初期にかけては、相手の苦労をねぎらう丁寧な言葉として階級を問わず広く使われていました。
実際、「ご苦労さま」の使われ方を調べた研究では、1950年代の小説作品などでも、部下が上司に対して自然に「ご苦労さまです」と使っている場面が登場しており、当時の社会では目下から目上に使っても失礼にならない一般的な表現だったと報告されています。
では、どこからこの言葉のマナーが生まれたのでしょうか。
この疑問を研究した報告は、大正・昭和初期の大衆向け時代小説が、不十分な時代考証で、主君が家来に『ご苦労であった』とねぎらっているものが見られる点を指摘しています。
実際はこうした場合、『大儀であった』という表現が多く、「ご苦労」は特に主君から家来というルールはなかったようですが、これが後の時代に、『ご苦労』は江戸時代、主君が家来をねぎらうときに使っていたという誤解を生む原因の一つになったのではないかと述べられています。
こうした誤解から大きな変化が生じたきっかけが、1980年代以降に企業が行った、ビジネスマナーのマニュアル化や社員研修の影響だと考えられます。
この動きの中で、「ご苦労さまは目下へ、お疲れさまは目上へ」というルールが記述され始め、当時の文部省が認定する「秘書検定」でもこの使い分けが正解として扱われました。
これにより「ご苦労さま」を目上の人に使うのは失礼、という社会的なルールが定着していったと見られるのです。
文化庁の「令和6年度 国語に関する世論調査」によれば、会社で自分より職階が上の人に対して掛ける言葉は「お疲れ様(でした)」が77.1%を占め、「御苦労様(でした)」は3.5%でした。
さらに職階が下の人に対しても「お疲れ様(でした)」が71.2%、「御苦労様(でした)」が14.9%となっています。
これは、80年代以降のビジネスマナーが現代社会に広く浸透していることを示しています。
一方で、こうした企業研修の普及以前の感覚を持つ年代や、ビジネスとは異なる環境で生きてきた人々の中には、現在でも純粋なねぎらいとして「ご苦労様」を使用する層が存在します。
2015年、投票所の70代監視員から「ご苦労さん」と声をかけられた40代の会社員が激高し、トラブルになるという事件が起きています。
これは40代の会社員が初対面の人間にご苦労さまは失礼だと認識したのに対し、70代監視員は、昔ながらの純粋な敬意やねぎらいの意を込めて声をかけた可能性が高く、言葉に対する認識の世代間ギャップが引き起こした摩擦の典型例と見られています。



























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