「脚の速さ」を決める要因が成長期のある一点で変化すると判明
「脚の速さ」を決める要因が成長期のある一点で変化すると判明 / Credit:Canva
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「脚の速さ」を決める要因が成長期のある一点で変化すると判明 (3/3)

2026.02.23 21:10:09 Monday

前ページ身長が最も伸びた「1.1年後」に脚の速さを決める転換点が訪れる

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現場でささやかれる「魔の年齢」

現場でささやかれる「魔の年齢」
現場でささやかれる「魔の年齢」 / Credit:Canva

ここからは論文の内容からやや離れて、競技における成長の問題を過去の研究成果を含めてみていきます。

フィギュアスケートや陸上競技の世界では、中学生、高校生の年代で世界と戦う選手がたくさん活躍しています。

オリンピックなどでは中学生や高校生の年代の子供たちがメダルを取っている様子を見たことがある人もいつでしょう。

一方で、同じ選手を長い目で追ってみると、「ぐんぐん伸びる時期」と「なぜか停滞したり崩れたりする時期」が波のように現れることがわかっています。

特にフィギュアの女子選手に目を向けると、日本では「17歳は魔の年齢」という表現がマスメディアを中心に語られてきました。

この時期は少女の体つきから大人の体つきへと変わるこの時期は、体重や重心の変化が大きく、これまでの感覚で跳ぶと失敗しやすくなるからです。

ジャンプは“同じ動き”に見えても、実際は体の重さのかかり方、回転のしやすさ、着氷の角度といった細かな条件が少し変わるだけで、感覚がズレやすいからです。

成長期は、身長だけでなく、脚と胴の比率、重心(体のつり合いの中心)の位置、筋肉の付き方が同時に変わります。

すると、昨日まで「この力で蹴ればこの高さ、この回転」と決まっていた“自分の体の取扱説明書”が、いつの間にか書き換わってしまいます。

練習量が同じでも、体の条件が変われば、まずは「新しい体に合わせた再学習」が必要になります。

(※ただし「魔の年齢」は医学的な専門用語ではなく、一部の競技や指導者のあいだでよく使われる、いわば“現場のことば”であり、噂に過ぎないという意見もあります。)

しかし成長がスポーツに影響を与えるとする学術的データは他にも存在します。

スポーツ科学の世界には「adolescent awkwardness(思春期のぎこちなさ)」という言葉があり、成長スパートのあいだに一時的にバランス感覚や協調性が落ちたり、動きが不器用になったりする現象を指すために使われています。

多くの論文では、この時期に走る・跳ぶ・方向転換するといった動きの成績が一時的に下がったり、ばらつきが大きくなったりすることが報告されていますが、この現象の定義や測り方にはまだ統一がなく、研究者のあいだでも議論が続いています。

例えばある指針では、女の子で10〜16歳のあいだに平均20センチ近く伸び、男の子では12〜16歳のあいだに30センチ近く伸びてもおかしくないとされています(成長スパートの影響をまとめた資料より)。

問題は、その急激な変化に体の「中身」が追いつくまで時間がかかることです。

このとき先行して伸びた骨格に対して、筋力が十分に使いこなせていないため、自然な成長だけではタイムが伸びない「伸び悩み」のように見えてしまうわけです。

その後、筋肉量や神経のコントロール能力が新しい骨格に合わせて「再調整」されてくると、再び記録が伸び始める、という流れです。

同じ年齢でも、成長スパートの前にいる子、真っ最中の子、通り過ぎた子が混ざっているため、コーチの目から見ると「同じ学年なのに急に走れなくなった」「去年まで一番だったのに今年はキレがない」と見えることがありますが、その背景にはこうした身体発達のタイミングの違いが隠れています。

今回の研究で調べられた脚の速さでもでも、成長スパートから1.1年後までは成熟が進むほど一歩の長さが伸びて走力も上がりますが、その先では「成熟が進んでも速くならない」状態になる可能性が示されました。

さらに女子体操、新体操、バレエ、飛び込み、そしてフィギュアスケート、……いわゆる「審美系」の競技では、問題がより複雑化します。

実際、多くの研究で、こうした競技の女子選手では、初経(最初の月経)が一般の女の子より遅くなる傾向が報告されています。

たとえば競技レベルのフィギュアスケーターを調べた研究では、初経年齢の平均が約14歳と推定され、一般の平均(おおよそ12〜13歳)より遅いことが示されています。

さらに、バレエダンサーや体操選手、飛び込み選手も、同世代の女子や他種目の選手に比べて「遅く成熟するグループ」に偏っていることが指摘されています。

また審美系競技は「細く、軽く、子どもっぽい体型」が、得点や評価につながりやすいという傾向があげられます。

もちろん審査員の好みではありません。

体操や新体操、バレエ、フィギュアスケートでは、ジャンプや回転をしながら、手足のラインや衣装の映え方まで含めて「見た目の美しさ」が競技の一部になっているほか、体が軽いほど高く跳びやすく、細いほど回転しやすいという物理的な要因が重くなっているからです。

そのため、選手自身も、コーチや審判からも、「細いこと」が暗黙のうちに求められやすくなってしまいます。

他のフィギュアスケート選手を対象とした研究では、エリート選手は一般の女の子だけでなく、下位レベルのスケーターよりも身長が低く、体重が軽く、初経も遅い傾向があると報告されています。

新体操選手でも、エリートほど体脂肪率が低く、初経年齢が遅いことが示されており、「競技で残りやすい体質」が統計の中に強く反映されていると考えられます。

もちろん激しい運動によって栄養不足になり初経が遅れるというケースもあるでしょう。

しかしさまざまなデータを考慮すると、そういった単純な栄養面だけではなく「もともと遅めの子がその競技で勝ち残りやすい」という方向の因果も同時に存在しているとも考えられます。

初経は体の成長という要因とも深くかかわっている大きなインパクトを持つイベントと言えるでしょう。

また男子選手の場合は初経こそありませんが、身長の伸びは女子以上に急激に進む場合もあります。

このように若い選手たちは、才能や努力といった要因に加えて自らの成長とも戦わなければならないと言えるでしょう。

もし近くに、競技選手を目指す成長期の子供がいて、その子のスコアが伸び悩んでいても、才能や努力だけではなく「成長」の要素も含めて見守ってあげたいものです。

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