菌が月の土を少しずつ「土壌化」していた
レゴリスの割合が増えるにつれて植物は強いストレスを受けていました。
草丈は低くなり、葉は黄色っぽくなり、枝分かれも少なくなっていきます。
特に100%レゴリスの条件では、ヒヨコマメは開花する前に枯れてしまいました。
ただし、ここで菌根菌の効果がはっきり表れます。
100%レゴリスでも、菌を接種した植物は接種していない植物より平均で約2週間長く生き延びました。
つまり、菌は過酷な環境そのものを一気に解決したわけではないものの、植物が受けるダメージをやわらげていたのです。
さらに重要なのは、レゴリス25~75%の混合条件では、菌を入れた区だけが開花し、種子を作ったことです。
種子の数はレゴリスの割合が高くなるほど減りましたが、多くの条件では種子の重さに大きな差は見られませんでした。
これは将来の多世代栽培を考えるうえで、ここは見逃せない点です。
この研究でもう一つ面白いのは、菌が植物を助けただけではなく、レゴリスそのものの性質も変えていたことです。
レゴリスは本来、粒子がまとまりにくく、水や栄養が動きにくい素材です。
ところが菌根菌がいると、菌糸や分泌物の働きによって粒子が結びつき、より安定した塊を作るようになりました。
これは、月の土に「土っぽさ」が少しずつ生まれ始めたことを意味します。
もちろん、まだ課題は残っています。
最大の問題は、収穫されたヒヨコマメが本当に安全に食べられるのかどうかです。
レゴリスには鉄、アルミニウム、亜鉛、銅などが多く含まれており、それらが植物体や種子にどの程度取り込まれたのかは、今後詳しく調べる必要があります。
栄養価が十分なのか、宇宙飛行士の食料として適しているのかも、これからの検証課題です。
それでも今回の成果は、月面農業の研究にとって大きな前進です。
生き物の力を使って、月の土を食料生産の土台へ変えていけるかもしれない。
その可能性を、ヒヨコマメが初めて具体的に示したのです。
月の未来の食卓は、まず一粒の豆から始まるのかもしれません。

























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