空間から粒子が出現する様子を初めて捉えた――真空のゆらぎから質量が生じる可能性
空間から粒子が出現する様子を初めて捉えた――真空のゆらぎから質量が生じる可能性 / Cre4dit:Canva
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空間から粒子が出現する様子を初めて捉えた――真空のゆらぎから質量が生じる可能性 (2/3)

2026.04.14 19:05:47 Tuesday

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空間から粒子が出現する様子が初めて観測された

空間から粒子が出現する様子が初めて観測された
空間から粒子が出現する様子が初めて観測された / マンガチックに表現すれば、こうなります。 空間には綺麗な顔をした人間が埋め込まれていて、揺らぎによってときたま綺麗な顔だけが出現することがわかっていますが、それはあまりにも一瞬で消えてしまいます。 そこで研究者たちは空間の中にいる綺麗な顔の人間を物凄い勢いで殴りつけます。 すると綺麗な顔が、ボコボコの顔に変化して、回転しながら飛び出してきます。 そのボコボコの顔と回転を調べることで、空間から顔が出現したという証拠を得るのです。Credit:Measuring spin correlation between quarks during QCD confinement

この見えない世界に、どうにか手を伸ばせないか。

アメリカ・ブルックヘブン国立研究所に集う世界中の物理学者チーム「STARコラボレーション」は、大胆な方法で挑みました。

作戦はシンプルでした。 真空に、とてつもないエネルギーを叩き込んでやる。 そうすれば、一瞬で消えるはずだった仮想のペアが、消える前に本物の姿で留まってくれるはず──。

研究チームは、陽子を光の速さの99.996パーセントまで加速し、別の陽子と真正面から衝突させました。

この衝突の衝撃で、真空の海からストレンジクォーク対がまさに引きずり出される、という算段です。

ただし、ここで一つ厄介な掟があります。

どんなクォークも、単独では決して存在できない、という物理法則です。

そのため真空から引きずり出されたストレンジクォークと反ストレンジクォークは「クォーク➔ラムダ粒子➔陽子と中間子」と一瞬で変わってしまいます。

そして現在の物理学ではそれを止めることはできません。

「それならストレンジクォーク出現の瞬間なんか観測できないじゃないか?」

と思うかもしれませんが、大丈夫です。

物理学にはとっておきの手がありました。

最終的に飛び散る陽子と中間子には、真空から生まれた瞬間の”指紋”が残されているのです。

その正体が、「スピン」と呼ばれる性質です。

難しく考える必要はありません。

スピンとは、それぞれの粒子が持つ”向き”のようなもの、とイメージしてもらえれば大丈夫です。

コインに表と裏があるようなものです。

理論の予言によれば、真空から同時に生まれるストレンジクォークと反ストレンジクォークのペアは、必ず同じ向きのスピンを持って誕生するはずでした。

双子が生まれた瞬間から同じ顔立ちを共有しているように、このペアも生まれながらに共通の印を帯びているのです。

そして大事なのはここからです。

その印は、ストレンジクォークがΛ粒子に姿を変え、さらに陽子と中間子へと崩壊しても、最後まで消えずに受け継がれることが理論的に分かっていました。

つまり、最終的に飛び散る孫粒子の向きを精密に測れば、生まれた瞬間の双子のスピンを逆算できるのです。

ちなみに、なぜ数あるクォークの中でストレンジだけが今回の主役になれたのか。

それは、ストレンジだけが”律儀な運び屋”だからです。

アップやダウンのような軽いクォークの場合、変身後の粒子に複数のクォークの情報が混ざってしまい、元のスピンを読み取ることができません。

ところがストレンジクォークから生まれるΛ粒子は、元のクォークのスピン情報をほぼ100%そのまま受け継いでくれる──そんな特別な性質を持っていたのです。

もし揃っていれば、「この二つは真空から一緒に生まれた、紛れもない双子である」という動かぬ証拠になります。

コラム:なぜ「揃っていたら証拠になる」と言えるのか

研究チームが「スピンが揃っていれば双子の証拠」と言えるのは理由があります。 通常、陽子と陽子を衝突させて生まれる粒子たちのスピンは、互いに相関を持たない──これは物理学者のあいだで長年確かめられてきた事実です。 衝突のエネルギーは、無数の経路でさまざまな粒子に分配されます。 そこから生まれてくる粒子たちは、それぞれが独立したプロセスで作られるので、ある粒子のスピンとまた別の粒子のスピンのあいだには、基本的に関係が生まれずスピンもバラバラです。 ビリヤードの初球で飛び散る玉たちがバラバラの回転をするのに似ています。 しかし、もしその中に、同じ方向に回転する奇妙なペアが存在した場合、それはただ衝突でばらけた存在と断言するには無理が出てきます。 ですから、測ってみてスピンの向きに揃いが見られれば、それは”何か特別な起源を共有している”証拠になる、というロジックが成り立つわけです。 もっとも飛び散った2粒子のスピンが偶然同じ方向になるという場合もありえます。 ですが今回の研究では6億回の衝突事象を調べ、単なる偶然の可能性を潰しています。

結果は、見事に理論の予言通りでした。

スピンは偶然では説明のつかない強さで揃っていたのです。

偶然そうなる確率は、十万分の一以下。 統計のノイズではあり得ない、双子として生まれた確かな痕跡でした。

さらに興味深いことに、二つの粒子が離れた方向に飛び散ると、スピンの揃いは消えていました。

これは、離ればなれになる途中で周囲のノイズに揉まれ、双子の絆が少しずつほどけていった様子を、そのまま数字が映し出していました。

粒子たちに刻まれた指紋を丁寧に読み解くことで、真空の底で起きていたとみられる粒子生成の痕跡が、くっきりと浮かび上がったのです。

研究チームは論文のなかで、真空から生まれたクォーク対が、姿を変えながら最終的な粒子になるまでの道のりを、スピンという手がかりで初めて追跡できたと報告しています。

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