お化け屋敷で「2人の距離が縮まる」かどうかを決める鍵

研究の舞台になったのは、フロリダ州ゲインズビルにある商業用お化け屋敷「Gainesville Fear Garden」でした。このアトラクションはハロウィンシーズンに営業する本格的な施設で、年ごとにテーマや構造を変えていきます。
目隠しとヘッドホンで感覚を奪う没入型の年もあれば、俳優が登場する伝統的なお化け屋敷の年もありました。
研究チームは2022年から2024年までの3年間、ここを「実験室」として使い続けました。協力した参加者は合計3,831人。
そして研究では主に、人間関係への影響を3つの角度から調べました。
1つ目は、体験後に「相手と近づいた気がするか」をストレートに聞く調査。
2つ目は、お化け屋敷に入る前と出た後で、親密さの点数が本当に変わったかを直接比べる調査。
そして3つ目は、参加者本人に「なぜそう感じたのか」を、対面でじっくり言葉で説明してもらうインタビューです。
結果、お化け屋敷で強く怖がった人ほど、「この体験で相手と近づいた」と感じやすかったことがわかりました。
また、体験中に手をつないだり、抱きついたり、ぶつかったりといった身体接触をした人も、相手との距離が縮まったと感じやすい傾向がありました。
これは日常感覚にもよく合っています。
怖い場面では、相手の存在が急に大きく感じられます。
暗闇の中で、隣にいる人の声を聞く、思わず手を握る、相手が叫んだのを見て、自分も笑ってしまう。
そうした瞬間に、私たちは「この人と一緒に体験している」と強く感じます。
興味深いのは、この関連が「親しい相手」だけのものではなかったことです。
研究チームは途中で実験設計を切り替え、「グループの中で最も親しくないと感じる相手」や「最もよく口論する相手」に焦点を当ててみました。
それでも約45%の参加者が「この体験でその人と近づいた気がする」と回答したのです。
さらにグループ全体について聞いた場合は、64%が「グループの絆が深まった気がする」と答えました。
少なくとも主観的なレベルでは、お化け屋敷は親しい相手とも、ちょっと気まずい相手とも、距離を縮めるように働くようでした。
ここまでは、研究者たちの予想通りでした。
ところが、お化け屋敷に入る前と出た後で「相手にどれくらい親しさを感じているか」を直接数値で比べてみると、そのスコアはほとんど動いていなかったのです。
距離を縮めたと多くの人が答えている割に、その様子が数値に見えてこないのは、一見すると矛盾に思えます。
ワイリー氏も「最も驚いた発見は、お化け屋敷の前後で親密さの数字に変化が見られなかったことでした。私たちは、最も親しいペアを対象にした調査と、最も親しくないペアを対象にした調査の両方を行いましたが、どちらも親密度の数字に大きな変化は見られなかったんです」と述べています。
そこで研究者たちは、この食い違いを解くために、20人の参加者への対面インタビューを行いました。
アトラクションとアンケートを終えたばかりの人たちを、静かな場所に招いて、じっくり話を聞いたのです。
そこで見えてきたのは、思いがけない答えでした。
20人中16人が、「お化け屋敷のあとに体験を振り返ったり、会話したりすることが、絆にとって大事だった」と語ったのです。
参加者にとって大切だったのは、単に一緒に怖がったという事実だけではありませんでした。
ある参加者は、こう答えました。
「家までは車で1時間半かかるんですよ。その間ずっと、さっきの音響装置の話をするって、もう分かってます」(参加者18)
別の場面で、同じ参加者は、初対面の相手と一緒にお化け屋敷を体験したときのことについて、こう語っています。
「3時間前に会ったばかりの人と、一緒にお化け屋敷を体験したんです。そしたら、”もう親友だよね”って感じになったんですよ。そういうものなんです、お化け屋敷って」(参加者18)
体験を語り直すことで、ただの恐怖体験が、「私たちが一緒にくぐり抜けた物語」に変わっていく――そう感じている参加者が、明らかに多数派でした。
そして参加者たちは、もう一つ印象深いことも口にしていました。
お化け屋敷という「ふだんの自分たちからは少し離れた状況」では、相手の見えない一面が顔を出すのだ、と。
20人中14人が、これに近いことに触れています。
ある参加者は、お互いに頼り合う感覚をこう語りました。
「あの場面で、自分は友達が頼れる存在になれたんです。そして自分も友達を頼ることができた」(参加者4)
別の参加者は、もっと踏み込んだことを言っています。
「友達と一緒に怖い思いをする機会って、そう多くないんです。だからこういう状況だと、その人のふだん見えない別の面を知ることになるんですよ」(参加者2)
つまりお化け屋敷では、「日常から離れた、ちょっと特別な体験」と「お互いに頼り合わざるを得ない状況」が同時に起きていて、その両方が「ふだん見えない相手」を見せてくれる。
そしてその後の語り合いが、見えた相手の姿を「思い出」として落ち着ける――そういう二段構えの仕組みが、インタビューから浮かび上がってきたわけです。
ここに至って、研究者たちは一つの見立てにたどり着きます。
そこで生まれる絆は、恐怖の瞬間に完成するのではなく、その後の振り返りと語り合いを通して、ゆっくりと結晶化していく――そう考えたほうが、これまでの食い違った結果がきれいに説明できるのです。



















































