「遺伝性でもない」原因不明の発症
医療チームは詳しい検査を行いました。
記憶に深く関わる脳の領域である海馬には、両側性の萎縮が確認されました。
また、脳脊髄液の検査では、アルツハイマー病と関連するバイオマーカーの異常が示されました。
記憶検査でも、同年代と比べて大きな低下が見られています。
特に、聞いた言葉をすぐに思い出す力や、数分後、30分後に思い出す力が大きく落ちていました。
ここで重要なのは、単なる「うっかり忘れ」ではなく、複数の検査で記憶障害を裏付ける所見がそろっていた点です。
アルツハイマー病は通常、高齢になるほどリスクが高まる病気です。
一方で、65歳未満で発症する若年性アルツハイマー病も存在します。
さらに30歳未満で発症するような非常に若い症例では、多くの場合、APP、PSEN1、PSEN2などの病的遺伝子変異が関わる家族性アルツハイマー病が疑われます。
ところがこの19歳男性には、家族にアルツハイマー病や認知症の病歴がありませんでした。
さらに、全ゲノムシーケンスを行っても、既知の原因遺伝子変異は見つかりませんでした。
感染症や頭部外傷、その他の病気など、急な認知機能低下を説明できる別の要因も確認されていません。
つまり、この症例は「非常に若い年齢でアルツハイマー病を疑わせる状態になったにもかかわらず、典型的な原因が見つからない」という点で、研究者たちに大きな謎を投げかけているのです。
ただし、この症例は「アルツハイマー病の可能性が高い」と診断されたケースであり、病理解剖などによる確定診断ではありません。
また、アミロイドPETやタウPETでは陽性所見が確認されていない点も、慎重に扱う必要があります。
そのため、この報告をもって「若者の物忘れはアルツハイマー病かもしれない」と一般化するのは適切ではありません。
むしろ大切なのは、アルツハイマー病という病気が、私たちが考えている以上に複雑で、発症の道筋が一つではない可能性を示している点です。
研究者たちは、若年発症例の解明が、今後の記憶障害研究における重要な課題になると述べています。
この19歳男性の症例は、あまりにも例外的で、すぐに一般の人々のリスクへ結びつけるべきものではありません。
しかし同時に、アルツハイマー病を「年を取ったら起こる病気」とだけ見なす理解を、静かに揺さぶる報告でもあります。
記憶を失っていく病気の謎は、高齢者だけでなく、若者の症例からも解き明かされていくのかもしれません。



























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